・・・千鶴子はその時、失敗して帰国した兄の知人の家で家事の手伝いをしていた。そこの老夫婦と面白くないこともあるらしい。「何か職業を見つけて一人で暮したいと思います。到底あの人たちと調和して行くことは出来ないのですから。それに結婚問題もあります・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・その手紙の終りには、父がその打撃に雄々しく耐えようとしているとおり、百合子も悲しみに耐えようとしているのは結構であるし、このことのために帰国しようとしないのももっともだと思うと、書かれていた。 私は可愛い一人の弟がそういう風に生れ合せた・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・しかし三年たってP牧師が休暇帰国して来たときには、快活な牧師夫人を伴っていた。やがて、時が経つうちに、次々と新しく若い女教師も来るようになり、C女史は小さなとある胡同の家に移った。「そこで彼女は一匹の小犬を飼い、幾株かの花を植え」「春の日は・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 十月二十四日 親たち帰国、 十月八日 おきると雨雨ね、おとうさま――ああ。だまっているんだ。また問題がおこるから。十時の汽車に父母のせトロカデロまでかえって Hotel へ行ったら・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
・・・ 一、Aの帰国 Aの田舎 一、困乱、安積A、田舎へ再びゆく。 一、家さがし、 一、別居生活、不なれな生活から来るヒステリー 一、作、Aの仕事、衝突、淋しい暮、祖母、 一、引越し。そのための不快。Aの父上京、Aの・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・しかし仲平の父は、三十八のとき江戸へ修行に出て、中一年おいて、四十のとき帰国してから、だんだん飫肥藩で任用せられるようになったので、今では田畑の大部分を小作人に作らせることにしている。 仲平は二男である。兄文治が九つ、自分が六つのとき、・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫