・・・一旦常に変った処置があると、誰の捌きかという詮議が起る。当主のお覚えめでたく、お側去らずに勤めている大目附役に、林外記というものがある。小才覚があるので、若殿様時代のお伽には相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・西向きの一室、その前は植込みで、いろいろな木がきまりなく、勝手に茂ッているが、その一室はここの家族が常にいる室だろう、今もそこには二人の婦人が…… けれどまず第一に人の眼に注まるのは夜目にも鮮明に若やいで見える一人で、言わずと知れた妙齢・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・それは彼が自己の生活を完全に感覚化し得たるが故ではない。それは彼が常にその完全な生活の感覚化から、他の何者よりもより高き生活を憧憬してやまなかった心境から現れたものに他ならない。感覚触発の対象 未来派、立体派、表現派、ダダイ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・いらっしゃれば大概二週間位は遊興をお尽しなさって、その間は、常に寂そりしてる市中が大そう賑になるんです。お帰りのあとはいつも火の消たようですが、この時の事は、村のものの一年中の話の種になって、あの時はドウであった、コウであったのと雑談が、始・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・しかも彼の心理観察の周密は常に描写のカリカチュアに堕するのを救う。従って彼の描写は簡素の限度だと言う事もできる。 ストリンドベルヒの頭は恐ろしくよい。ゾラの頭はきわめて平凡である。五 告白の欲望はともすれば直ちに製作衝動・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫