・・・は、知られているとおり、十六歳の学問好きな、そして母から伝えられた根気よさと自立を愛する精神をもつ少女ジュヌヴィエヴが、第一次のヨーロッパ大戦前のフランスの中流生活の常套の中で、俗っぽく偽善的な父親が強いている「良俗」に反抗し、自分の独立と・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・これまでの家庭生活が若い女に加えている窮屈な常套をはねのけて、生活的によりひろい社会との接触の中に生きたいという欲望から、また、仕事そのものに興味があるということから、無邪気にこの社会の機構が思いつかせる悪計に利用されているのです。 職・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・この主任は、事ごとに、彼から見れば所謂心理的な雑談をしかけ、警察的暗示を注入しようとするのが常套手段なのである。 自分は正面の窓から消防署の展望塔を眺めた。白ペンキで塗られた軽い骨組みの高塔は深い青葉の梢と屋根屋根の上に聳えて印象的な眺・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・英雄伝はいつもそのように書かれるのが常套である。けれども、国民の日々の生気の溌溂さというものは、案外のところによりどころを持っていると思う。あながち食物の潤択さばかりにもない。物資の豊富さばかりにもない。 相当の空き腹で、相当に雨水のし・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・散文精神という言葉はこれらの作家達によって言われているのであるが、ロマンティシズムに対する、又は常套的な詩的精神に対する現実の強調、勇気ある散文の精神を対置している意味は何人にも明かであるとして、現実と作家との関係を方向づけている上述のよう・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ けれども、C先生、私は真個に伝習の力の恐ろしさを思わずには居られません。常套の不思議な催眠力を恐れずには居られません。米国婦人が、不用な奢侈品に良人の体中の油汗を搾らせながら、祈祷の文句を誦し、人道の為に、彼女等が殆ど一人として云わな・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ジイドは、自分がコンゴーを観た観かた、どこでも、何にも目を奪われず、常に絶対に誠実であろうとする自己の主観的な常套にのみ固執し、それに意識を奪われて大局を見誤っている。彼の理解に従っての精神の独立不羈を護ろうとする、その態度を示す自己目的の・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 女の場合には男より一層それが社会の通念や常套と絡みあって来る。葛藤が女性を文学以前において消耗する力は、何とおそろしく執拗だろう。そのたたかいの間から漸々いくらかずつ自身の文学を成長させて来ている事実は、現在私たち同時代の婦人作家の殆・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・いつも活気があり、流動があり、些の感傷と常套もあって、父は親密な温い父でした。 私が九つか十位から十年間ばかり、私がまだ父と一緒の家に暮していた間、朝父の出がけの身仕度をするのが私の楽しい任務でした。お洒落ではなかったが、髭は必ず毎朝剃・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・そして、その殆ど猛烈な波動は、その時代のアグネスの内部に常に対立していて激しく噛みあっていた女としての本来は健全な性的欲求と、女がこの社会で女であるために受けて行かなければならない常套的な結婚生活における様々の半奴隷的事情、因習に対する断乎・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫