・・・ 主筆 常談でしょう。……とにかくうちの雑誌にはとうていそれは載せられません。 保吉 そうですか? じゃどこかほかへ載せて貰います。広い世の中には一つくらい、わたしの主張を容れてくれる婦人雑誌もあるはずですから。 保吉の予想の誤・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・僕は「常談云っちゃいけない。僕をして過たしめたものは実は君の諳誦なんだからな」とやっと冷笑を投げ返した。と云うのは蛇笏を褒めた時に、博覧強記なる赤木桁平もどう云う頭の狂いだったか、「芋の露連山影を正うす」と云う句を「連山影を斉うす」と間違え・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・ Mの声は常談らしい中にも多少の感慨を託していた。「どうだ、もう一ぺんはいって来ちゃ?」「あいつ一人ならばはいって来るがな。何しろ『ジンゲジ』も一しょじゃ、……」 僕等は前の「嫣然」のように彼等の一人に、――黒と黄との海水着・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・「じゃこの国にも教会だの寺院だのはあるわけなのだね?」「常談を言ってはいけません。近代教の大寺院などはこの国第一の大建築ですよ。どうです、ちょっと見物に行っては?」 ある生温かい曇天の午後、ラップは得々と僕といっしょにこの大寺院・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 常談言っちゃいけない。僕は三晩泊めて貰えりゃ好いんだ。」 譚は驚いたと言うよりも急に愛嬌のない顔になった。「たった三晩しか泊らないのか?」「さあ、土匪の斬罪か何か見物でも出来りゃ格別だが、………」 僕はこう答えながら、内心・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・などと常談のように声をかけたりした。この神経痛と思ったものが実は後に島木さんを殺した癌腫の痛みに外ならなかったのである。 二三箇月たった後、僕は土屋文明君から島木さんの訃を報じて貰った。それから又「改造」に載った斎藤さんの「赤彦終焉記」・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・「あしたはもう日曜ですね。この頃もやっぱり日曜にゃ必ず東京へお出かけですか?」「ええ、――いいえ、明日は行かないことにしました。」「どうして?」「実はその――貧乏なんです。」「常談でしょう。」 粟野さんはかすかに笑い・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・と言ったのは勿論わたしの常談であります。実際は非難を加えずともよろしい。わたしは或批評家の代表する一団の天才に敬服した余り、どうも多少ふだんよりも神経質になったようであります。同上 再追加広告 前掲の追加広告中、「或批評・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・と思うと肩の上へ目白押しに並んだ五六人も乗客の顔を見廻しながら、天国の常談を云い合っている。おや、一人の小天使は耳の穴の中から顔を出した。そう云えば鼻柱の上にも一人、得意そうにパンス・ネエに跨っている。…… 自働車の止まったのは大伝馬町・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・僕等は妻の常談を機会に前よりも元気に話し出した。 僕はO君にゆうべの夢を話した。それは或文化住宅の前にトラック自動車の運転手と話をしている夢だった。僕はその夢の中にも確かにこの運転手には会ったことがあると思っていた。が、どこで会ったもの・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
出典:青空文庫