・・・「気の毒だわね、こんなにお客がなくっては。」「常談言っちゃいけない。こっちはお客のない時間を選って来たんだ。」 それから夫はナイフやフォオクをとり上げ、洋食の食べかたを教え出した。それもまた実は必ずしも確かではないのに違いなかっ・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・「御常談で。……しかしレエン・コオトを着た幽霊だって云うんです」 自動車はラッパを鳴らしながら、或停車場へ横着けになった。僕は或理髪店の主人に別れ、停車場の中へはいって行った。すると果して上り列車は二三分前に出たばかりだった。待合室・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・すると仲間の水兵が一人身軽に舷梯を登りながら、ちょうど彼とすれ違う拍子に常談のように彼に声をかけた。「おい、輸入か?」「うん、輸入だ。」 彼等の問答はA中尉の耳にはいらずにはいなかった。彼はSを呼び戻し、甲板の上に立たせたまま、・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・「御常談を――それでも、先生はほかの人と違って、遊びながらお仕事が出来るので結構でございます」「貧乏ひまなしの譬えになりましょう」「どう致しまして、先生――おい、お君、先生にお茶をあげないか?」 そのうち、正ちゃんがどこから・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
出典:青空文庫