・・・こうした些細な慾望や、理想は兎も角として、この地上に誰れもが求め、限りもなくのぞむものは平和と愛ではないでしょうか。各々もとめるところの形は皆ちがいましょうけれど、私達の理想とするものは、愛と平和の融合を措いてこの世の楽園は考えられないと思・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・秀麿と父との対話が、ヨオロッパから帰って、もう一年にもなるのに、とかく対陣している両軍が、双方から斥候を出して、その斥候が敵の影を認める度に、遠方から射撃して還るように、はかばかしい衝突もせぬ代りに、平和に打ち明けることもなくているのは、こ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そこで平和の中にお別れが出来ると云うものじゃございませんか。 男。しかしなぜわたくしの恋をさまさなくてはならないのですか。 女。それでございますか。それはわたくしがもうあの写真を外の人に見せたからでございますの。ね、お分かりになりま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・だが、ナポレオンはヨーロッパの平和克復の使命を楯にとって応じなかった。デクレスは最後に席を蹴って立ち上ると、慰撫する傍のネー将軍に向って云った。「陛下は気が狂った。陛下は全フランスを殺すであろう。万事終った。ネー将軍よ、さらばである」・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・斜面をなしている海辺の地の上に、神の平和のようなものが広がっている。何もかも故郷のドイツなどとは違う。更けても暗くはならない、此頃の六月の夜の薄明りの、褪めたような色の光線にも、また翌日の朝焼けまで微かに光り止まない、空想的な、不思議に優し・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そうして平和な美しさは洗い去られてしまった。 このような体験を持った人々は決して少なくない。スピークやグラント、リヴィングストーン、カメロン、スタンリー、シュワインフルト、ユンケル、デ・ブラッザ、なども同じものを見たのである。が、前世紀・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫