・・・之を要するに現代の新女優、給仕女、女店員、洋風女髪結のたぐいは、いずれも同じ趣味と同じ性行とを有する同種の新婦人である。 今銀座のカッフェーに憩い、仔細に給仕女の服装化粧を看るに、其の趣味の徹頭徹尾現代的なることは、恰当世流行の婦人雑誌・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・その車から出た老人は店員が頭を下げている前を通って店内に消えた。堂々たる飾窓のなかにある女の身のまわり品の染直しものだの、そういう情景には何か人の心情を優しくしないものがある。若い女のひとたちも日夜そういうものを目撃し、その気風にふれ、しか・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・職業婦人の働く場面というと、事務員、店員その他いわゆるサービス・インダストリーが従来は主要部分を占めていた。数の上からだけ見れば、今日も明日もそうであるかもしれない。けれども、時局の要求する生産拡充への大努力によって重工業、化学、食料、織縫・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・数年前デパートの女店員は家庭を助けたが、今は家庭が中流で両親そろい月給で生計を助ける必要のないものというのが採用試験の条件である。「大人」に憂いが深いばかりか大人になりつつある若い男女の心も、訴えに満ちている。世の中は何故こうなったのだろう・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・すると殆ど例外なしに訊かれた女店員は、一寸お待ち下さいと云って、売場のどこからか男の店員をつれて来るだろう。連れて来られた男の店員の方が大して女より年嵩だというのでもないことが多い。それにもかかわらず、男の店員の方は、客の問いに対して専門家・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・或る者は直ぐ黒い上被りを着た店員に別の棚からその本を出して貰い、金を払っている。 成程これは、ソヴェト同盟らしい親切なやりかただ。ただ新刊書を一まとめにして、丸善の棚みたいに並べてあるのではない。この本棚が、謂わば書籍購入相談所なのだ。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・この間或る婦人雑誌で、百貨店の婦人店員たちが仕舞の稽古をしている写真も見た。 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえな・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・工場へなり給仕になり店員になりやってせめて喰べるものだけは、何とかして雇主にもって貰いたいという非常に切迫した要求がある。現に職人のところで使われる小僧さんの姿が目立ってふえて来ている。ブリキヤとか大工とか。労働基準法では少年の労働について・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・燈火が灯ってから彼処を散歩すると、どの店も派手で活気があり、散策者と店員等を引くるめてあの辺に漂っている一種独特の亢奮した雰囲気に包まれて見える。青や紫のケースの中で凝っとしている宝石類まで、夜というと秘密な生命を吹き込まれるようだ。昼間は・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・そこにあるのはヨーロッパの安物商品、ズボンをはいたみじめなニグロ、ヨーロッパ人に寄生するニグロの店員、などだけである。しかし前世紀の先駆者たちが、この「ヨーロッパ文明」の地帯やその背後の緩衝地帯を突き抜けて、「いまだ触れられざる地」に達した・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫