・・・が、性来愚鈍な彼は、始終朋輩の弄り物にされて、牛馬同様な賤役に服さなければならなかった。 その吉助が十八九の時、三郎治の一人娘の兼と云う女に懸想をした。兼は勿論この下男の恋慕の心などは顧みなかった。のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・中には霊の飢餓を訴うるものがあっても、霊の空腹を充たすの糧を与えられないで、かえって空腹を鉄槌の弄り物にされた。 二葉亭の窮理の鉄槌は啻に他人の思想や信仰を破壊するのみならず自分の思想や信仰や計画や目的までも間断なしに破壊していた。で、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・吉田はそのお婆さんからはいつも少し人の好過ぎるやや腹立たしい印象をうけていたのであるが、それはそのお婆さんがまたしても変な笑い顔をしながら近所のおかみさんたちとお喋りをしに出て行っては、弄りものにされている――そんな場面をたびたび見たからだ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・三十前後の顔はそれよりも更けたるが、鋭き眼の中に言われぬ愛敬のあるを、客擦れたる婢の一人は見つけ出して口々に友の弄りものとなりぬ。辰弥は生得馴るるに早く、咄嗟の間に気の置かれぬお方様となれり。過分の茶代に度を失いたる亭主は、急ぎ衣裳を改めて・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ 祖母は、赤漆で秋の熟柿を描いた角火鉢の傍に坐り、煙管などわざとこごみかかって弄りながら云う。「近頃ははあ眼も見えなくなって、糸を通すに縫うほどもかかるごんだ。ちっとは役に立ちたいと思って来たが、おれもはあこうなっては仕様がない。―・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
出典:青空文庫