・・・――結膜炎だか、のぼせ目だか、何しろ弱り目に祟り目でしょう。左の目が真紅になって、渋くって、辛くって困りました時、お雪さんが、乳を絞って、つぎ込んでくれたのです。 走りはしません、ぽたぽたぐらい。一人児だから、時々飲んでいたんですが・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・蹴ったくそわるいさかい、亭主の顔みイみイ、おっさんどないしてくれまんネいうて、千度泣いたると、亭主も弱り目にたたり目で、とうとう俺を背負うて、親父のとこイ連れて行きよった。ところが、親父はすぐまた俺を和泉の山滝村イ預けよった。山滝村いうたら・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ ――横痃かも知れねえ。弱り目に祟り目だ。悪い時ゃ何もかも悪いんだ。どうなったって構やしない。――「その代りなあ、淋しい死に方はしやしないからな」 私は、ほつれた行李の柳を引き千切って、運河へ放り込みながら、そう云った。「お・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
出典:青空文庫