・・・ お民はそのまま、すらりと敷居へ、後手を弱腰に、引っかけの端をぎゅうと撫で、軽く衣紋を合わせながら、後姿の襟清く、振返って入ったあと、欄干の前なる障子を閉めた。「ここが開いていちゃ寒いでしょう。」「何だかぞくぞくするようね、悪い・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・目をはずすまいとするから、弱腰を捻って、髷も鬢もひいやりと額にかかり……白い半身が逆になって見えましょう。……今時……今時……そんな古風な、療治を、禁厭を、するものがあるか、とおっしゃいますか。ええ、おっしゃい。そんな事は、まだその頃ありま・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・……湯気に山茶花の悄れたかと思う、濡れたように、しっとりと身についた藍鼠の縞小紋に、朱鷺色と白のいち松のくっきりした伊達巻で乳の下の縊れるばかり、消えそうな弱腰に、裾模様が軽く靡いて、片膝をやや浮かした、褄を友染がほんのり溢れる。露の垂りそ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
出典:青空文庫