・・・ 天神橋を渡ると道端に例の張子細工が何百となくぶら下って居る。大きな亀が盃をくわえた首をふらふらと絶えず振って居る処は最も善く春に適した感じだ。 天神の裏門を境内に這入ってそこの茶店に休んだ。折あしく池の泥を浚えて居る処で、池は水の・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、象のうしろのかかとにはめた。「なかなかいいね。」象も云う。「靴に飾りをつけなくちゃ。」オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、穿め込んだ。「うん、なかなかいいね。」・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・そこでネネムは一人の検事をつけてフクジロを張子の虎をこさえる工場へ送りました。 見物人はよろこんで、「えらい裁判長だ。えらい裁判長だ。」とときの声をあげました。そこでネネムは又巡視をはじめました。 それから少し行きますと通りの右・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・そこまでは比較的自然に運ばれて来た観客の感情がそのような場面に近づくにつれ次第に不自然な道どりに引き入れられて、いわゆるクライマックスでは一目瞭然たる張子の森林などの中に恋人たちとともに案内されるのは迷惑である。そういう点だの技術的な俗習、・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
出典:青空文庫