・・・くれず、夜はしみじみと更ける寒さは増す、独りグイ飲みのやけ酒という気味で、もう帰ろうと思ってるとお前が丁度やって来たから狸寝入でそこにころがって居ると、オ前がいろいろにしておれを揺り起したけれどおれは強情に起きないで居た。すると後にはお前の・・・ 正岡子規 「墓」
・・・「仲々強情な子供だ。俺はもう六十になるんだぞ。そして陸軍大将だぞ。」 楢夫は怒ってしまいました。「何だい。六十になっても、そんなにちいさいなら、もうさきの見込が無いやい。腰掛けのまま下へ落すぞ。」 小猿が又笑ったようでした。・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・「――俺そんなもの、買って来やしねえ」「うそ! 壁まで蓮の花だらけだよ。この人ったら」「買わねえよ――何云ってるんだ」「強情張るにも程がある。ほら、ほら! そんなにあるのに無いって私をだますのか、ほら、ほら! ああ、蓮だらけ・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・その真中をのぞくと、いつもその中心にボルティーコフの強情な骨だらけの肩がゆらゆら揺れていないことはないのだ――。第一、婦人労働者がこんなに働いているところで、彼みたいな男を放任して置くことは、もう女たちに辛棒出来なくなって来た。 工場ク・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ と強情にその反対を主張するのである。 手紙を貰って心痛をしている若い叔母が、愉快でない面持で、妙な小僧! と云った。いやに訳が分らないんだね。本当にね、どうしたんだろうと子供の母親も考えていたが、何かに思い当ったようなばつのわるい表情・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 漱石は、今日の歴史から顧みれば、多くの限界の見える作家であるが、知識人の独立性、自主性を主張することにおいては、なかなか強情であった。官僚にこびたりすることは、文学者のするべきことでないという態度をもっていた。東京帝大教授として、文部・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・「知らないんだから仕様がない」「云わんか」「…………」「畜生! いい気になりゃがってェ」 竹刀が頭へ横なぐりに来た。「どうだ! 云え」「…………」「強情つっぱったって分ってるんだ」 そして、嬲るように脛を・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 一かどの芸術家は、男女によらずだれしも或る強情さ、一途さ、意志のつよさ、人生への負けじ魂をもっている。それは人間的な素地として、其々の専門部門への特別な天稟とともに備えている。其々の時代の制約と闘うということも共通である。苦心するのも・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・間もなく親元から連れ戻しに親類が出たが、強情を張って帰らない。親類も川桝の店が、料理店ではあっても、堅い店だと云うことを呑み込んで、とうとう娘の身の上をこの内のお上さんに頼んで置いて帰ってしまった。それが帰ると、又間もなく親類だと云って、お・・・ 森鴎外 「心中」
・・・ 安国寺さんの誠は田舎の強情な親達を感動させて、女学生はF君の妻になることが出来た。二人は小石川に家を持った。 ―――――――――――― 又一年立った。私はロシアとの戦争が起ったので、戦地へ出発した。F君は新橋・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫