・・・ 古いことがぼつぼつ復活する当代であるから、もしかすると、どこかでまたこの「鴫突き」の古いスポーツが新しい時代の色彩を帯びて甦生するようなことがないとも云われないであろう。 この方法が鴫以外のいかなる鳥にまで応用出来るかということも・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・この二人の話を聞いてからなるほどそんな事もあろうかと思って試みに当代ならびにその以前の廟堂諸侯の骨相を頭の中でレビューしながら「大臣顔」なるものの要素を分析しようと試みたのであった。 ついせんだってのあのベーブ・ルースの異常な人気でも、・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 聞くところによると、そのKという女優は、富豪の娘に生れ、当代の名優と云われるTKの弟子になってその芸名のイニシアルを貰い、花やかに売出したのであったが、財界の嵐で父なる富豪が没落の悲運に襲われたために、その令嬢なるKは今では自分の腕一・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・そこにはともかくも一般政治から独立した恒久的観測研究の系統が永い以前から確定されており、その上に当代の有名な学者の数々を聚めているのであるから、この際思い切って気象台の観測事業の範囲を徹底的に拡張して、そうして前述のごときあらゆる天災の根本・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ 二 新しい学説が学界から喜んで迎えられるならば、それはその説がその当代の学界の痛切な要求にうまく適合するからであることは明らかである。もう十年も前から世界中の学者が口をもぐもぐさせて云おうとしていたが、適当・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・しかしこれに反して、どうしても疑問にならない唯一の確実な事実は、アインシュタインの相対性原理というものが現われ、研究され、少なくも大部分の当代の学界に明白な存在を認められたという事実である。これだけの事実はいかなる疑い深い人でも認めないわけ・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ いかにオリジナルな変異の産物でも当代の多数の観賞者が見てちっともおもしろくなかったり、ひとり合点で意味のわからないようなものは、わざわざ勦絶に骨を折らなくても当代の環境で栄えるはずはないであろう。全く死滅しないまでも山椒魚か鴨の嘴のよ・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・之に反して、昭和当代の少年の夢を襲うものは抑も何であろう。民衆主義の悪影響を受けた彼等の胸中には恐怖畏懼の念は影をだも留めず、夢寐の間にも猶忘れざるものは競争売名の一事のみである。聞くところによれば現代の小学生は小遣銭を運動費となして、級長・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・わが当代の芸術界は之がために如何なる薫化を蒙ったかはまだ之を審にすることができない。然し松方山本二氏の姓名の永くわが文化史上に記録せられべきものたることは言うを俟たない。 大正八年の秋始て帝国劇場に於てオペラを演奏した芸人の一座は其本国・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・江戸旧文化の支那模倣は当代の西洋模倣に比較して、誰か優劣なしと言い得るものがあろう。昭和二年丁卯五月稿 永井荷風 「向嶋」
出典:青空文庫