・・・露都へ行く前から露国の内政や社会の状勢については絶えず相応に研究して露国の暗流に良く通じていたが、露西亜の官民の断えざる衝突に対して当該政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・こういう場合にその同じ部門の専門家が審査員になっていれば、当該方面の文献も手近に揃っており、従って提出された仕事がその方面の領域で占める地位とその幅員も判断されやすい。しかし、こういう代表的なアカデミックな仕事ですらも審査員の眼界があまりに・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・しかし、一体そういう自由がこの世に有り得るものか、どの程度までそれが可能であるか、またその可能限度まで自由を許すことが、当該学者以外の多数の人間にとって果していつでも望ましい事であるか。こういう問題を、少し立入って考究し論議するとなると、事・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・それで今日ただ今眼前に一つの事件が起こったとき、その事件の内容の一端だけを知れば、それだけのわずかな資料によって当該事件がおよそどの型に属するかという漠然たる見当をつけることができるように、そういう準備がいつでもできているのである。その見当・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならない・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・それだけに作家の当該の自然に対する感じあるいはその自然の中に認めた生命が強い強度で表わされていると思った。それからまた「清水」と「高瀬川」という題で、絵馬か覗きからくりの絵からでも進化したような絵があったが、あれにもやはり無限に近づこうとす・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・あるにもかかわらず学生は迷惑である。当該課目における智識が欠乏するためではない、当該課目以外の智識が全然欠乏しているからである。ただ欠乏しているからではない。その結果としていらぬところまでのさばり出て、要もない課目を打ちのめさねばやまぬてい・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
出典:青空文庫