・・・なるほど娑婆に居る時に爪弾の三下りか何かで心意気の一つも聞かした事もある 聞かされた事もある。忘れもしないが自分の誕生日の夜だった。もう秋の末で薄寒い頃に袷に襦袢で震えて居るのに、どうしたかいくら口をかけてもお前は来てくれず、夜はしみじみと・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ まことに女らしい天性によって、孝子夫人の情熱の主題は、日常生活の中での人と人との間の愛と信義、心意気と好みとの上にあつめられていたと思うのは誤りだろうか。孝子夫人は、何につけても本当に心のたっぷりさを愛していた方だと思う。自分も心のた・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ チフリスのホテルも同じであったが、始めそういうことで心意気が見えすき、それに連関して細々と不快なことがあった。順に行くとクリミヤで同じ道を辿るので、一つ此処で、ぐっと方向を換えよう。バクーへ行こう。そこで、やや性急に自分たちのバクー行・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫