・・・すると、官僚は、妙な笑い声を交えながら、実に幼稚な観念語(たとえば、研究中、ごもっともながらそこを何とか、日本再建、官も民も力を合せ、それはよく心掛けているつもり、民主々義の世の中、まさかそんな極端な、ですから政府は皆さんの御助力を願って、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・「ええ、そんなに急ぐのでないから、心掛けて置いて下さいまし。あのう、私、名刺があるんですけれど、」袂から、そそくさと小さい名刺を出した。「裏に、ここの住所も書いて置きましたから、もし、適当のかたが見つかったら、ごめんどうでも、ハガキか何・・・ 太宰治 「鴎」
・・・何はしかれ、御手紙をうれしく拝見したことをもう一度申し上げて万事は御察し願うと共に貴下をして、小生を目してきらいではない程のことでは済まされぬ、本当に好きだといって貰うように心掛けることにいたします。吉田さんへも宜しく御伝え下され度、小生と・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ そこへ行けば、精神上の修養を心掛けていると云う評を受ける。こう云う評は損にはならない。そこには最新の出来事を知っていて、それを伝播させる新聞記者が大勢来るから、噂評判の源にいるようなものである。その噂評判を知ることも、先ず益があって損・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・教程や教授法にも改良の余地が沢山にあるように思われるが、第一教わる方に心掛けと興味がなければ結局何の効果もない訳である。この興味と心掛けはどこから生れるか。これが一番重大な問題である。一つには国民性もあるかもしれないが、また一つには幼い頃か・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・を求めるための手段として各人の持つべき心掛けを説いているようにも思われる。それはとにかく、現代に活動している人でもこの一段の内容を適当に玩味することが出来れば名利の誘惑に逢って身を亡ぼすような災難を免れるだけの護符を授かるであろうと思われる・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・紺屋の白袴とでもいうのか、元来心掛けの悪いためか、それとも不精なのか、おそらくそれのすべてであろう。しかし一体に科学の研究を生涯の仕事にしている者のためには、出来てしまっているものには興味がなくてまだ出来ないものにのみ興味を引かれる。そうし・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・そのためには『実話新聞』だの何だのという印刷物も一通りは風俗資料として保存して置きたいと心掛けている。 戦争前、カフェー汁粉屋その他の飲食店で、広告がわりに各店で各意匠を凝したマッチを配布したことがある。これを取り集めて丁寧に画帖に貼り・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語学をも勉強して、一通りは内外の時勢に通じ、学者の談話を聞ても其意味を解し、自から談話しても、其意味の深浅は兎も角も、弁ずる所の首尾全うして他人の嘲を避ける位の心掛けは、婦人の身になくて叶わぬ事なり。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを要するに、国民一般に政治の思想を養えとは、国民一般に学問の心掛けあるべしというに異ならず。人として学問の心掛けは大切なれども、全国の人民、悉皆学者たるべきに非ず。人として政治の思想は大切なれども、全国の人民、悉皆政治家たるべきに非ず。・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫