・・・では南北の線よりも東西の線の方が町並みが発達しているので、東西の線を通りと呼び、南北の線を筋と呼んでいるが、これが島ノ内に来ると、反対に南北の方がひらけて、南北の線が通り、東西の線が筋になる、もっとも心斎橋筋や御堂筋は南北の線だが筋というよ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・前方に見えるのは、心斎橋筋の光の洪水である。そして、その都会的な光の洪水に飽いた時、大阪人が再び戻って来るのは、法善寺だ。 織田作之助 「大阪発見」
・・・ そんな彼が戎橋を渡って、心斎橋筋を真直ぐ北へ、三ツ寺筋の角まで来ると、そわそわと西へ折れて、すぐ掛りにある「カスタニエン」という喫茶店へはいって行ったから、驚かざるを得ない。「カスタニエン」は名前からしてハイカラだが、店そのものもエキ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・くから両親を失い家をなくしてしまった私は、親戚の家を居候して歩いたり下宿やアパートを転々と変えたりして来たためか、天涯孤独の身が放浪に馴染み易く、毎夜の大阪の盛り場歩きもふと放浪者じみていたので、自然心斎橋筋や道頓堀界隈へ出掛けても、絢爛た・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ それはもう式も間近かに迫ったある日のこと、はたの人にすすめられて、美粧院へ行ったかえり、心斎橋筋の雑閙のなかで、ちょこちょここちらへ歩いて来るあの人の姿を見つけ、あらと立ちすくんでいると、向うでも気づき、えへっといった笑い顔で寄って来・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
出典:青空文庫