・・・ どれ程丁寧に臆病に寧ろ馬鹿馬鹿しい程の心遣いを以て自分自身を取り扱うか。 私は一昨年の病気以来深くその生き様とする願望の忍耐強さ従順さを感じて居る。 其れ故若し彼が真個の全快を希望したなら恐らく彼はだれでもと同様に子供の様にな・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ サロンに入選しても、マリアはますます自分の画の不満を自覚してきびしく自分を鞭撻しているのに、家族の者がマリアの体を気づかう姑息な女々しい心遣いはマリアを立腹させるばかりである。マリアの耳では目醒時計の刻む音がきこえなくなった。過去四年・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・「女は常に心遣いしてその身を堅く謹慎すべし朝早く起き夜は遅く寝ね昼は寝ずして家の内のことに心を用い云々」当時の男としてのこういう要求においても益軒は女のための養生訓の必要ということに思い及ぼうともしていない。女が子を持てなければ去るべし・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 故国から来る贈物は、自分の生れたところから来た物と、自分をいつも愛して下さる両親の心遣いで送られたものという二重の意味を以て、私の心を喜ばすのである。 此も旅に居なければ味えない心持であろう。 今年は、珍らしく五つになる妹の御・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・高田の鋭く光る眼差が、この日も弟子を前へ押し出す謙抑な態度で、句会の場数を踏んだ彼の心遣いもよくうかがわれた。「三たび茶を戴く菊の薫りかな」 高田の作ったこの句も、客人の古風に昂まる感情を締め抑えた清秀な気分があった。梶は佳い日の午・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫