・・・芭蕉のこれを詠ずるもの一、二句にして 招提寺若葉して御目の雫ぬぐはゞや 芭蕉 日光あらたふと青葉若葉の日の光 同のごとき、皆季の景物として応用したるに過ぎず。蕪村には直ちに若葉を詠じたるもの十余句あり。皆・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「そこで今の『正直は最良の方便』という格言は、ただ私たちがうそをつかないのがいいというだけではなく、又丁度反対の応用もあるのです。それは人間が私たちに偽をつかないのも又最良の方便です。その一例を挙げますとわなです。わなにはいろいろありま・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・けれども茲ではまず生物連続が面白かったようですからそれを色々応用して見ます。則ち人類から他の哺乳類鳥類爬虫類魚類それから節足動物とか軟体動物とか乃至原生動物それから一転して植物、の細菌類、それから多細胞の羊歯類顕花植物と斯う連続しているから・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・これはみかたによっては、減刑運動を一つのファシズム示威に応用しようとかまえている人々への無取締り通告である。その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・この手紙の内容は、誰にでもすぐ考えられるとおり、キュリー夫妻が世間の人たちが誰でもやっているとおり自分の発見に特許をとって、ラジウム応用のあらゆる事業から莫大な富を独占するか、それとも、そんなことは一切せず、科学上の発見を人類の進歩のために・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 大根を葱からよりわけるように、文化上の健全なものと不健全なものとを二つの山によりわけて、健全なものときまった方のものは、どんな応用のしかたをしてもその健全さは変らないと、金剛石さえ焼ければ消えることのある現実を忘れたような解釈が、知ら・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・科学上の原理の発展への努力、その努力によってもたらされた成果の後を応用的な部面が跟いてゆくのは必然であって、日本の科学性というものは、歴史との関係から見てもこの意味でどの程度自給自足であるのか。そのことも考えられる。 現在の私たちが生き・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・母親や娘は、彼女等の手芸、刺繍、パッチ・ウワーク等を応用して、暇々に、新たな壁紙に似合う垂帳、クッション、足台等を拵える。 公共建築や宮殿のようなものは例外として、中流の、先ず心の楽しさを得たい為に、居心地よい家を作ろうとするような者は・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・を主義宣伝に応用しているから、一応尤もだとも云われよう。小説や脚本には、世界中どこの国でも、格別けむたがっているような作はない。それを危険だとしてある。「戦争と平和」で、戦争に勝つのはえらい大将やえらい参謀が勝たせるのではなくて、勇猛な兵卒・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・石田が偶に呑む葉巻を毛布にくるんで置くのは、火薬の保存法を応用しているのである。石田はこう云っている。己だって大将にでもなれば、烟草も毎日新しい箱を開けるのだ。今のうちは箱を開けてから一月も保存しなくてはならないのだから、工夫を要すると云っ・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫