・・・連れて来たM君はこの意外の光景にすっかり面食らって立ち往生をしたそうであるが、その時先生のこの酔漢に対する応答の態度がおもしろかった。相手の酔っぱらいの巻き舌に対して、どっちも負けずに同じような態度と口調で、小気味よくやりとりをしていた。負・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・ 共同作者らの唱和応答の間に、消極的には謙譲礼節があり、積極的には相互扶助の美徳が現われないと、一句一句の興味はあっても一巻の妙趣は失われる。この事を考慮に加えずして連俳を評し味わうことは不可能である。真正面から受ける「有心」の付け句が・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・そうしてそれに対して応答もできない自分を恥じなければならないような気持ちさえしたのである。 彼の宅の呼び鈴の配線に故障があって、その修理を近所の電気屋に頼んであったのがなかなか来てくれなかった。あとで聞いてみると、早慶戦のためにラジオの・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・周囲のおおぜいの乗客はたった今墓場から出て来たような表情であるのに、この二人だけは実に生き生きとしてさも愉快そうに応答している。それが夫婦でもなくもちろん情人でもなく、きわめて平凡なるビジネスだけの関係らしく見えていて、そうしてそれがアメリ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・参観者の列席の前で、佐田は児童との初歩的な階級性を帯びた質問応答によって彼の発見しつつある新しい教育法を示威しようとしたことから、ついに反動教育と決裂する。あやまれといわれたことに対して、体じゅうをブルブルふるわし「私は詫びにきたのではあり・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・によって、結婚した両性の愛は、何も、ちょくちょく顔を見なければおられない筈のものでも無く、自分の愛情の表現に対して、必ず、同様な方法によって応答して貰わなければ寂寥に堪えないというようなものであるべきでないことは、熟知しているのです。これ等・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
二月 日曜、二十日 朝のうち、婦人公論新年号、新聞の切りぬきなどをよんだ。東京に於る、始めての陪審裁判の記事非常に興味あり。同時に陪審員裁判長の応答、その他一種の好意を感じた。紋付に赤靴ばきの陪審員の正直な熱心さが・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・政府のこしらえている特別考査委員会というものは、その委員会での討論ぶりを見てもわかるように、特別な考慮のための委員会の本質をもっているから、政党としての共産党は、その応答ぶりにおいて、必ずしもいつもわたしたちの希望するだけ率直ではあり得ない・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・私が、科学的な書籍に或る程度の興味を感じ得るようになったのも、自己の裡に湧き上る思想、感情を、先ず持ちこたえて整理することを覚えたのも、皆、先生との座談的な質問、応答の裡に、習ったと云ってよい。 私のみならず、他の多くの若い女性にと・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・と、口の先だけしんみり応答している。 女はいつの間にかいなくなった。赧ら顔のずんぐり男は、それでも、電車が来ると、「えー、ナニ? 入庫、君、入庫して下さい」とやっている。「入庫だって」「入っちゃっていいんですか」・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫