・・・白い様な茶であったら、それはつまらぬこじつけ理窟か、駄洒落に極って居る、天候の変化や朝夕の人の心にふさわしき器物の取なしや配合調和の間に新意をまじえ、古書を賞し古墨跡を味い、主客の対話起座の態度等一に快適を旨とするのである、目に偏せず、口に・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・それが年を取るうちにいつの間にか自分の季節的情感がまるで反対になって、このごろでは初夏の若葉時が年中でいちばん気持のいい、勉強にも遊楽にも快適な季節になって来たようである。 この著しい「転向」の原因は主に生理的なものらしい。試みに自分の・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・よけいな調味で本来の味を掩蔽するような無用の手数をかけないで、その新鮮な材料本来の美味を、それに含まれた貴重なビタミンとともに、そこなわれない自然のままで摂取するほうがいちばん快適有効であることを知っているのである。 中央アジアの旅行中・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 庭に小松の繁茂した小高い砂丘をとり入れた、いかにも別荘らしい、家具の少ない棲居も陽子には快適そうに思われた。いくら拭いても、砂が入って来て艶の出ないという白っぽい、かさっとした縁側の日向で透きとおる日光を浴びているうちに陽子は、暫らく・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
映画女優のあたまのよさが、一つの快適な美しさ、あるいは深い心と肉体の動きの感銘として作品のなかに十分活かされている場合をみると、大抵のとき、それは製作の方向、監督のみちびきかたと密接な関係をもっているように思える。したがっ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・人類が社会を構成しはじめてから、それについての認識をもちはじめて以来、より幸福に、より快適に生きようとする希望から築きあげてきた成果の見事さについて、くりかえすのはほとんど愚な業である。一方において、芸術と自然科学とを幾世代にわたって花咲か・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・へ進み、快適なテムポであっさりと読みなれた人々にきらわれるかもしれない、ばか念のいれかたで、「道標」のおよそ第三部ぐらいまで進んでゆこう。そして、女主人公の精神が、より社会的に、ほとんど革命的に覚醒され、行動的に成長したとき、作品の構成もテ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・仮令先について居るたまが金むくであろうとも、二米のゴム管を十二指腸へ送り込む芸当は優美にして 快適な至芸ではない。自分は一生の間に屡々此は繰りかえしたくないことだと思った。そこで、眉毛が目の三倍位長い医者に質問した。――私は自分の胆嚢が・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・こんな家でもあった丈有難く思う謙遜さ またそれをもっと快適なものにしようとする我ままさ。 ――○――◎私は自分が、空想に支配され、いつも目の先にあらゆる壮美なもの、崇高なものの幻を描きながら、毎日は手をつかね坐り、・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・そういう事情があると思いもそめず、家賃が手頃なのや一人暮しに快適な間どりの工合やらにひかれて契約した。そして引越したら、二三日で、溌剌騒然たる小学校の賑わいが、別して朗々たるラウド・スピーカアの響きとともに、朝から夕刻まで、崖上に巣をかけた・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫