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・・・ 溺死者の屍体が二、三日もたって上がると、からだ中に黄螺が附いて喰い散らしていて眼もあてられないという話を聞いて怖気をふるったことであった。 海水着などというものはもちろんなかった。男子はアダム以前の丸裸、婦人は浴衣の紐帯であったと・・・
寺田寅彦
「海水浴」
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・・・利平が、争議団に頭を割られてから、お初はモウスッカリ、怖気づいてしまっている。「何を……馬鹿な……逃げ出すなんて、そんな……アッ、ツ、ツ」 眼をむいて、女房を怒鳴りつけようとしたが、繃帯している殴られた頭部の傷が、ピリピリとひきつる・・・
徳永直
「眼」