・・・日本人をロシア人と同じ人間と考えようとする一部の思想家たちの非科学的な根本的錯誤の一つをここにも見ることができるであろう。 稲田桑畑芋畑の連なる景色を見て日本国じゅう鋤鍬の入らない所はないかと思っていると、そこからいくらも離れない所には・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・優れたフランスの思想家の書いたものには、ショペンハウエルが深くて明徹なスウィスの湖水に喩えたようなものが感ぜられる。私はアンリ・ポアンカレのものなどにそういうものを感ずるのである。 我国では明治の初年は如何にあったか知らないが、大体・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・ニイチェほどに、矛盾を多分に有した複雑の思想家はなく、ニイチェほどに、残忍辛辣のメスをふるつて、人間心理の秘密を切りひらいた哲学者はない。ニイチェの深さは地獄に達し、ニイチェの高さは天に届く。いかなる人の自負心をもつてしても、十九世紀以来の・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・社会歴史の展望的な面へ科学的でない批判を集中して、資本主義の立場にたつ政治家がこんにち猛烈に反省をしなければ、日本の青年は政治的無関心に陥いるしかないといっている点など、こんにちの日本のブルジョア思想家の害悪をみないわけにはゆきません。こん・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 通俗には誤って考えられているこの時代の思想家マキャヴェリの真の価値も、その著作「フィレンツェ史」にふれつつ当時の活動の跡に即して正しい光りに照らし出されているし、メレジェコフスキーの「神々の復活」という小説の中などでは、予言者として怒・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・反ファシズム団体が政治的に結合したばかりでなく、文化を擁護するためにフランスの思想家、作家が反ファシスト行動委員会を組織した。この委員長はパリの自然博物館長であった。この委員会は学界の代表者を包括して八千名を超した。 これまで社会問題を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・安倍さんという人は漱石門下の一人で、昔は「大思想家の人生観」というしごく尨大でわかりにくい本の翻訳などもやり、今なお老いて若い心があって、青年の大先輩として思いやりのあるひとの一人であろう。友情に慰安を求めよ、と云う言葉のなかに若い胸にふれ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・私はまだごく若くて、その人の専門の学問その他に注意をひかれるより、単純にその人の書く手紙に英語の詩やその他所謂偉大な思想家の著作からの引用文があんまり沢山あることで、何か親しみ難い感情を抱いた。 私は、手紙の中に様々の引用文などをする人・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・そう云う人は危険思想家である。中には実際は危険思想家になっていながら、信仰のないのに信仰のある真似をしたり、宗教の必要を認めないのに、認めている真似をしている。実際この真似をしている人は随分多い。そこでドイツの新教神学のような、教義や寺院の・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・しかしわが国では、文芸家や思想家の多くは、四十を越すか越さないころからもう老衰し始めています。これはおもに青春期の「教養」を欠いたからです。彼らは青春期の不養生によって、人間としての素質を鞏固ならしめることができませんでした。頭と心臓がすぐ・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫