・・・いったい、科学の方法の基礎には一般人間悟性に固有で必然ないろいろな方則とその運用のあらゆる形式が控えている。この形式はインドやギリシアの古代からいわゆる哲学者によってすでに探究されはじめ、そうして長い哲学の歴史の流れを追うて次第次第に整理さ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・人間の感官の窓を通して入り込んで来る物を悟性や理性によって分析し綜合して織り出された文化の華である。それであるのに科学と芸術とは一見没交渉な二つの天地を劃しているように思われる。このような区別はどこから来たものであろうか。 吾人が事象に・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・これは医道のことなどは平生深く考えてもおらぬので、どういう治療ならさせる、どういう治療ならさせぬという定見がないから、ただ自分の悟性に依頼して、その折り折りに判断するのであった。もちろんそういう人だから、かかりつけの医者というのもよく人選を・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・私の悟性から見れば、初め君が他人の空似は有るものだと云ったのは反語でなくてはならない。芸者が臥所へ来た時、君は浜路に襲われた犬塚信乃のように、夜具を片附けて、開き直って用向を尋ねた。さて芸者の詞を飽くまで真面目に聞いて、旨く敬して遠ざけたの・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・認識とは悟性と感性との綜合体なるは勿論であるが、その客体を認識する認識能力を構成した悟性と感性が、物自体へ躍り込む主観なるものの展発に際し、よりいずれが強く感覚触発としての力学的形式をとるかと云うことを考えるのが、新感覚の新なる基礎概念を説・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・のであって、悟性の判断に待つのではない。この点について三味線の鶴沢重造氏はきわめて興味の深いことを話してくれた。最初三味線を弾き出す時に、左右を顧み、ころあいをはかってやるのではない。もちろん合図などをするのではない。自分がパッと飛び出す時・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫