・・・ いかに孝女でも悪所において斟酌があろうか、段々身体を衰えさして、年紀はまだ二十二というのに全盛の色もやや褪せて、素顔では、と源平の輩に遠慮をするようになると、二度三度、月の内に枕が上らない日があるようになった。 扱帯の下を氷で冷す・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・元々開化が甲の波から乙の波へ移るのはすでに甲は飽いていたたまれないから内部欲求の必要上ずるりと新らしい一波を開展するので甲の波の好所も悪所も酸いも甘いも甞め尽した上にようやく一生面を開いたと云って宜しい。したがって従来経験し尽した甲の波には・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・「亀の尾は、悪所やさかい。と云って居る間にも痛みと熱は次第に高まって行った。お節は額と打ち身の所に濡れ手拭をのせて足をさすったり、手を撫でたりして居たが、手にさえ感じられる熱の高さにびっくりして医者を迎えに行ってもらうために、一・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 春ごろ、青少年労働者が浪費と悪所遊びに陥る傾向について諸方面からの関心が向けられた。つまりは、いくらか余分の金が入ることと、健全な慰安が日常生活に失われていることとから悪遊びを覚えた青年たちが、ついに職業をもちながら、物とりまでもする・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫