・・・そういう人は甚だ少くないが、時に気の毒な目を見るのもそういう人で、悪気はなくとも少し慾気が手伝っていると、百貨店で品物を買ったような訳ではない目にも自業自得で出会うのである。中には些性が悪くて、骨董商の鼻毛を抜いていわゆる掘出物をする気にな・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・余程肚の中がむしゃくしゃして居て、悪気が噴出したがっていたのであろう。 叱咤したとて雪は脱れはしない、益々固くなって歯の間に居しこるばかりだった。そこで、ふと見ると小溝の上に小さな板橋とおぼしいのが渡っているのが見えたので、其板橋の堅さ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・「只今のようなわけで、至って無邪気なので、決して悪気があって笑ったりしたのではないようでございますから、どうかおゆるしをねがいとう存じます。」 私はもちろんすぐ云いました。「どう致しまして。私こそいきなりおうちの運動場へ飛び込ん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・そして悪気のない調子でつづけた。「お前は強情な奴だな。だが、それは、それでいいんだ。心配することはない。然し本だけはやめろ」 主人が家で『モスク新聞』をとるようになった。お茶から夕飯までの時間、ゴーリキイは口論しないときには「退屈し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・人達の笑いながらしゃべって居る時に私は何かよんだものの中の主人公なんかを思って別に気もつかず悪気もなくって考えこんで居ると、いきなり私の母は私の体をゆすったり大きな声を出したりして私の思った事をめちゃめちゃにこわしておいて、別にあやまりもし・・・ 宮本百合子 「妙な子」
出典:青空文庫