・・・「文部大臣が文部大臣の意見として、小生を学位あるものと御認めになるのはやむをえぬ事とするも、小生は学位令の解釈上、小生の意思に逆って、御受をする義務を有せざる事を茲に言明致します。「最後に小生は目下我邦における学問文芸の両界に通ずる・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・だから忠臣でも孝子でももしくは貞女でも、ことごとく完全な模範を前へおいて、我々ごとき至らぬものも意思のいかん、努力のいかんに依っては、この模範通りの事ができるんだといったような教え方、徳義の立て方であったのです。もっとも一概に完全と云いまし・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・また他の人は意思の発現に伴う荘厳の情緒を得なければ、文芸上のあるものを味うた気がしないとまで主張するかも知れない。これらの時代もこれらの人々もことごとく正しいのであります。また四種のいずれでも構わないと云う人があれば、その人の趣味はもっとも・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・一世に知られずして始終逆境に立ちながら、竪固なる意思に制せられて謹厳に身を修めたる彼が境遇は、かりそめにも嘘をつかじとて文学にも理想を排したるなるべく、はた彼が愛読したりという杜詩に記実的の作多きを見ては、俳句もかくすべきものなりとおのずか・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・生計の担当者である彼女たちの一票は少くともそれに反対する人民の意思表示となるべきであると思う。 安達ヶ原 群馬の或るところに恐ろしい人肉事件が起った。また再び詳しく話し返すに堪えない残忍な話である。今日、食糧事・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・多くの人々の上に、その作品と他の面での市民的意思表示との間の発展的な矛盾があらわれている。或いはあれとこれとの間にある距離があらわれている。鎌倉で「平和を守る会」が発足した時、川端康成のよんだ平和宣言は人々の心を打った。「絵志野」とあの文章・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ソヴェトの話が日本の話になってしまいましたが、ソヴェト社会について、何故日本の私たちが語る価値があるかといえば、ソヴェトは自分たちの意思で、自分達の幸福を守り得るような社会を作って来たからです。自分たちの目の前にあることをどう見る・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・という表現も、創作方法の問題としては、あらゆる現実の生きた姿を現実にある儘の錯綜した相互関係で、動いている有様の儘そこに一定の洞察と意思を持って描くという方法と混同された不明瞭さがあった。 未熟であり、よしやある誤りを含んでいたとしても・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 計画された意思のつよさという点で、藤村を何となし思いくらべさせる。 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・ こういうふうにみてくれば菊池寛が広く読まれたというのは日本の人民の社会的批判と自分の運命についての意思がハッキリしなかったということの反映だと思います。 たとえば講談社の出版物は広く読まれているが、しかしそれが日本の人民の幸福にど・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
出典:青空文庫