・・・しかるに、その子供に人生の希望と高貴な感激を与えて、真に愛育することを忘れて、つまらぬ虚栄心のために、むずかしいと評判されるような学校へ入れようとしたり、子供の力量や、健康も考えずに、顔さえ見れば、勉強! 勉強! というが如きは、却って、其・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・や、夜泣きや、おしっこの始末や、おしめの洗濯でさえも実に睡眠不足と過労とになりがちなものであるのに、一日外で労働して疲労して帰って、翌日はまた託児所にあずけて外出するというようなことで、果して母らしい愛育ができるであろうか。二十五、六歳で結・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・威勢のいい赤は其から幾年間を太十の手に愛育された。太十とお石との情交は移らなかった。お石は顔に小さい皺が見えて来てもう遠から白粉は塗られなかった。盲目の衰え易い盛りの時期は過ぎ去って居るのである。其でも太十の情は依然として深かった。・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・七歳の時にはさらに阿波の国司がこのことを聞いて、目代から玉王を取り上げ、傍を離さず愛育したが、十歳の時、みかどがこれを御覧じて、殿上に召され、ことのほか寵愛された。十七の時にはもう国司の宣旨が下った。ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫