・・・ 今まで黙っていた廉州先生は、王氏のほうを顧みると、いちいち画の佳所を指さしながら、盛に感歎の声を挙げ始めました。その言葉とともに王氏の顔が、だんだん晴れやかになりだしたのは、申し上げるまでもありますまい。 私はその間に煙客翁と、ひ・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・着物を雨で濡らす心配があるか、ライン河の入日の画端書に感嘆の声を洩らす時のほかは、滅多に雲の影などへ心を止めないのも不思議ではない。いわんや今は薔薇の花の咲き乱れている路に、養殖真珠の指環だの翡翠まがいの帯止めだのが――以下は前に書いた通り・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・私はあまりの不思議さに、何度も感嘆の声を洩しますと、ミスラ君はやはり微笑したまま、また無造作にその花をテエブル掛の上へ落しました。勿論落すともとの通り花は織り出した模様になって、つまみ上げること所か、花びら一つ自由には動かせなくなってしまう・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・ 二欧洲人の風俗習慣に就て、段々話を聞いて見ると、必ずしも敬服に価すべき良風許りでもない様なるが、さすがに優等民族じゃと羨しく思わるる点も多い、中にも吾々の殊に感嘆に堪えないのは、彼等が多大の興味を以て日常の食事を楽む・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・先年或る新聞に、和田三造が椿岳の画を見て、日本にもこんな豪い名人がいるかといって感嘆したという噂が載っていた。この噂の虚実は別として、この新聞を見た若い美術家の中には椿岳という画家はどんな豪い芸術家であったろうと好奇心を焔やしたものもまた決・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・とそれまで沼南に対して抱いた誤解を一掃して、世間尋常政治家には容易に匹を求めがたい沼南の人格を深く感嘆した。 それにしてもYを心から悔悛めさせて、切めては世間並の真人間にしなければ沼南の高誼に対して済まぬから、年長者の義務としても門生で・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 今より十七八年前、誰やらが『我は小説家たるを栄とす』と放言した時、頻りに其の意気の壮んなるに感嘆されたが、此の放言が壮語として聞かれ、異様に響きて感嘆さるゝ間は小説家の生活は憐むべきものであろう。が、当時は此の壮語を吐いて憤悶を洩らす・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・と、お爺さんは感嘆して、お婆さんと話合いました。「絵を描いた蝋燭をおくれ」と、言って、朝から、晩まで子供や、大人がこの店頭へ買いに来ました。果して、絵を描いた蝋燭は、みんなに受けたのであります。 するとここに不思議な話がありました。・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・と、おじいさんは感嘆して、おばあさんと話し合いました。「絵を描いたろうそくをおくれ。」といって、朝から晩まで、子供や、大人がこの店頭へ買いにきました。はたして、絵を描いたろうそくは、みんなに受けたのであります。 すると、ここに不思議・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・と、博士は、その一つ、一つを手に取り上げてながめていましたが、「これは、私のまだ見たことのない、珍しいものです。」と、感歎していました。 このとき、信吉は、「ご入用なら、あげます。」といいました。 博士の目は、たちまち、感謝・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
出典:青空文庫