・・・同性の友情が、常にその友の対手である異性に対して、友の感情の必然を理解しているという意味から慎重であり、節度をもっているのが自然であると同様に。 友情のそういう健全な敏感さは、日常の接触のおりおり、みだす力としてより整える力として発露し・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・女なら女のことを解決するかもしれない、というぼんやりした婦人たちの期待は、時期尚早のうちに強行された選挙準備のうちに、決して、慎重に政党の真意を計るところまで高められようもなかった。連記制は、この未熟さに拍車をかけて、三名選挙するのなら、そ・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・それだからこそ、若い人たちを指導する立場にいるひとは慎重で常識を明らかにして、その若さのよさを笑いものにするようなことがあってはなるまいと思う。 新体制という声は、若人よ立て、という響をおこしたけれど、このことは実際生活の中でどんな形で・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・私はやっと生活の上で闊達であるばかりでなく文学の上でも闊達ならんとしているらしいから一層慎重に勉強をすすめるつもりです。 あなたに叔父様は目のことを注意なすった様子ですが、呉々も読みすぎぬよう願います。それから風呂へ入るとき、風呂桶のフ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ スーザンの心の波は慎重に誠意をもってたどられており、作者は、スーザンの雄々しく美しい生活態度を描いてそこから人類の命をつらぬく積極的な生活力を暗示している。けれども、今日スーザンが経つつある沢山の苦しみや悲しみは、ほかならぬその経験を・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ 一九四六年に組織された現在の放送委員会は日本のラジオの民主化にたいして負わされた責任において、慎重に政府案を検討した。公聴会も開いた。そして政府の放送事業法案にたいして、より具体的にラジオ民主化の可能性をもった放送委員会法要綱を作成し・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・過去の文学運動のプラスとマイナスとに対する慎重な反省から目を逸らさせ、真面目な再吟味の根気を失わせられたことは、それらの作家たちが過去において率直に傾け示した自身の努力、人間的善意の価値に自信を失わせる結果となり、従って、プロレタリア文学運・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 私はこの小説の作者が、感化院の園児の脱走という、最も特徴的な、心理的な生活の面を、もっと慎重に突き入って注目しなかったことを残念に思うのである。 感化院の生活を強いられている少年が、そこにいたたまらず脱走しようとする。そして、やっ・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・今日はその危険に対する自他ともの慎重な戒心が決して尠くてよい時期ではないのである。〔一九三七年十月〕 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・そうなると、作家というものはもう慎重な態度はとっていられるものではなくなってしまう。 必ずそのときには悪魔か神かに突きあたってぶらぶらしてしまうより方法はないが、何かかけ声のようなものをかけ、一飛びに無理をそのまま捻ぢ倒してしまってふう・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫