・・・僕らも少しは痛いだろうがまあ我慢してさ。するとあいつのゴム靴がめちゃめちゃになるだろう。」「うん。それはいいね。しかし僕はまだそれ位じゃ腹が癒えないよ。結婚式がすんだらあいつらを引っぱり出して、あの畑の麦をほした杭の穴に落してやりたいね・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・どんな息子にしろ、格別の感情を抱いてもいない妹の友達たち一人一人をやがての嫁選びのような目で自分にひきつけて眺められることには我慢しきれない神経をもっていると思う。家庭というもののうちにあるそういう煩わしい、幾分悲しく腹立たしい過敏な視線が・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・「それはいじめるかも知れないがね、わたしは我慢して見せます。金で買った婢をあの人たちは殺しはしません。多分お前がいなくなったら、わたしを二人前働かせようとするでしょう。お前の教えてくれた木立ちの所で、わたしは柴をたくさん苅ります。六荷ま・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・その間にわたくしが後悔しておことわりをせずに、我慢していましたのは、よっぽどあなたに迷っていた証拠でございますわ。一体冷却する時間をお与えなさるなんと云うことは、女に取って、一番堪忍出来にくいのでございますけれど。そのうち馬車が参りましたの・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・食わす位ならまだ我慢もしよが、どんと寝附かれて動きもこじりも出来んようになったらどうするぞ!」「抛っといたらええってば。」「抛っといてそれで済むもんならええわさ。それより、お前どこで寝せるぞ、奥の間か?」「小屋へ置いときゃええ。・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫