・・・ 三日には東京府、神奈川、静岡、千葉、埼玉県に戒厳令が布かれ、福田大将が司令官に任命されて、以上の地方を軍隊で警備しはじめました。そのため、東京市中や市外の要所々々にも歩哨が立ち、暴徒しゅう来等の流言にびくびくしていた人たちもすっかり安・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 一八四八年二月、フランスで二月革命が起りイギリス、ドイツに波及しベルギーでは戒厳令が布かれた。三月三日、ベルギー官憲はマルクスを捕え、マルクス夫人も捕縛して一晩留置場へ入れた。この無法なやりかたは、当時のブルッセル市民を怒らせた。しか・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・すると、直ちにそれを共産党の蜂起とデマり、鎮圧の名目で軍隊を繰り出し、市街戦で革命的労働者、前衛を虐殺し、それをきっかけに戒厳令をも布く。そのような計画が予定のうちにあるキッカケの為に、赤松は総同盟の労働者を最も値よく売ろうとしている、と云・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・保釈の際、判事は二・二六による戒厳令下の事情によって百合子の公判が終了するまで顕治への面会通信は控えるようにといった。 六月二十六日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 二十六日の夜。九時 第一信[自注2] 今・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・自分等葡萄棚の涼台で、その号外を見、話をきき、三越、丸の内の諸ビルディング 大学 宮城がみなやけた戒厳令をしいたときく。ぞっとし、さむけがし、ぼんやりした。が全部信ぜず、半分とし、とにかく四日に立つと、前きめた通りにする。吉田氏帰村し、驚き・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・小使がつい、予審判事に戒厳令という言葉を言ったために。三月。下旬、予審終結。ひどく健康を害していたために市ヶ谷からじかに慶応大学病院に入院した。六月。公判、懲役〔二〕年、執行猶予〔四〕年を言い渡された。予審と公判とを通じて私は文学の・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 余り突然の大事なので、喫驚することさえ忘れて聞いていた私は、「為めに全市に亙って戒厳令を敷き」と云う文句を耳にすると、俄かにぞっとするような恐怖を感じた。五つか六つの時、孫の薬とりに行った老婆が、電信柱に結びつけられ兵隊に剣付鉄砲で刺・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・まるで戒厳令だ。通りに面している店と云う店はことごとく表戸をしめている。板戸に錠前をかけ、あるところでは鉄扉がおろされている。 広場の中心へ行くと、やっと、行列らしいものがあった。往来でもみかけたようなレイン・コートの一隊が広場をグルリ・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫