・・・と御両君のうちいずれへか衝突の尻をもって行かねばならん、もったいなくも一人は伯爵の若殿様で、一人は吾が恩師である、さような無礼な事は平民たる我々風情のすまじき事である、のみならず捕虜の分際として推参な所作と思わるべし、孝ならんと欲すれば礼な・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・(余自身はそれほど新らしい脊髄がなくても、不便宜なしに誰にでも出来る所作 先生はまたグラッドストーンやカーライルやスペンサーの名を引用して、君の御仲間も大分あるといわれた。これには恐縮した。余が博士を辞する時に、これら前人の先例は、毫も・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・もっともこれは能とさほど性質において差違はないが、正面の舞台で女の生首を抱いたり箱へ入れたりしているのにその所作には一向同情がない。万事余計な事をしているように思われる。まるで西洋人が始めて日本の芝居を見たら、こうだろうと想像されるくらい妙・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・のみならず磨ぎながら乱暴な歌を平気でうたっていると云う事が、同じく十五六分の所作ではあるが、全篇を活動せしむるに足るほどの戯曲的出来事だと深く興味を覚えたので、今その趣向そのままを蹈襲したのである。但し歌の意味も文句も、二吏の対話も、暗窖の・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・かつ所作の活溌にして生気あるはこの遊技の特色なり、観者をして覚えず喝采せしむる事多し。但しこの遊びは遊技者に取りても傍観者に取りても多少の危険を免れず。傍観者は攫者の左右または後方にあるを好しとす。 ベースボールいまだかつて訳語あら・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・きょうの百物語の催しなんぞでからが、いかにも思い切って奇抜な、時代の風尚にも、社会の状態にも頓着しない、大胆な所作だと云わなくてはなるまい。 原来百物語に人を呼んで、どんな事をするだろうかと云う、僕の好奇心には、そう云う事をする男は、ど・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・この事実から眼をそむけて神と死後の生とを仮構するのは、現実をありのままに受容するに堪えない卑怯者の所作に過ぎぬ。――かくのごとき常識にとっては「神が死んだ」という宣告のごときはもはや何の刺激にもならない。神はもともと存在しなかったのである。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・ そこで我々は能面のこの作り方が、色彩と形似とを捨て去った水墨画や、自然的な肉体の動きを消し去った能の所作と同一の様式に属することを見いだすのである。能についてほとんど知るところのない自分が能の様式に言及するのははなはだ恐縮であるが、素・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・最初は宗教的な儀式としての所作事にとって必要であった。その所作事が劇に転化するに従って登場する人物は複雑となり面もまた分化する。かかる面を最初に芸術的に仕上げたのはギリシア人であるが、しかしその面の伝統を持続し、それに優れた発展を与えたもの・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫