・・・ 矢部は平気な顔をしながらすぐさま所要の答えを出してしまった。 もうこれ以上彼のいる場所ではないと彼は思った。そしてふいと立ち上がるとかまわずに事務所の方に行ってしまった。 座敷とは事かわって、すっかり暗くなった囲炉裡のまわりに・・・ 有島武郎 「親子」
・・・人間としての本質の要所要所で厳格でありたい。 母としての女性の使命はこのほかにまた、「時代を産む母」としてのそれがあることを忘れてはならぬ。女性の天賦の霊性と直観力とで、歴史と社会との文化史的向上の方向を洞察して、時代をその方向に導くよ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・植木鉢や、金魚鉢が、要所要所に置かれて、小ざっぱりした散髪屋である。暑いときには、散髪に限ると思った。「うんと、うしろを短く刈り上げて下さい。」口の重い私には、それだけ言うのも精一ぱいであった。そう言って鏡を見ると、私の顔はものものしく・・・ 太宰治 「美少女」
・・・ーガーと週期的な不快な音を立てさせたり、あるいは、重要でない対話はガラス戸の向こう側でさせて、観客の耳を解放し、そうすることによって想像力を活動させるほうに観客のエネルギーを集注させ、そうしてかえって所要の効果を強めたりするのも、これらも決・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして浮かしてある栓の棒がだんだんに下がって行って丁度所要の文句を書いた区分線が器の口と同高になった時を見すましてもう一度烽火をあげる。乙の方ではその合図の火影を認めた瞬間にぴたりと水の流出を止めて、そうして器の口に当る区分の文句を読むと・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・今度のレコードは食った量のほかに所要時間を測定してあるのが進歩である。時間が無制限ならば百や二百の生玉子をのむのは容易である。 ウィーンのある男は厳重なる検閲のもとにウインドボイテルを六十九個平らげた。彼の敵手は決勝まぎわに腹痛を起こし・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ しかしこういう漫歩的見物をしているだけでは所要の付け句はできない。付け句を構成するためにはそれ以前に考慮さるべき若干の制約が規定されている。第一は季題に関するもので、たとえば「秋」あるいは「雑」でなければならないとすれば、前記の逍遙中・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫