・・・三人で手分けをして庭に出て、大きな声で「ポチ……ポチ……ポチ来いポチ来い」とよんで歩いた。官舎町を一軒一軒聞いて歩いた。ポチが来てはいませんか。いません。どこかで見ませんでしたか。見ません。どこでもそういう返事だった。ぼくたちは腹もすかなく・・・ 有島武郎 「火事とポチ」
・・・今朝俺は青島と手分けをして、青島は堂脇んちの庭に行き、俺は九頭竜の店に行った。とてもたまらない奴だ。はじめの間は、なかなか取りつく島もなかったが、とうとう利をもっておびき出してやった。名は今ちょっといえないが私どもの仲間に一人、ずぬけてえら・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・十五日がこの村の祭で明日は宵祭という訣故、野の仕事も今日一渡り極りをつけねばならぬ所から、家中手分けをして野へ出ることになった。それで甘露的恩命が僕等両人に下ったのである。兄夫婦とお増と外に男一人とは中稲の刈残りを是非刈って終わねばならぬ。・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・実はあの手紙、大変忙しい時間に、社の同僚と手分けして約二十通ちかくを書かねばならなかったので、君の分だけ、個人的な通信を書いている時機がなかった。稿料のことを書かないのは却って不徳義故誰にでも書くことにしている。一緒に依頼した共通の友人、菊・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫