・・・の見はらしよき一室に寝かせ、電球もあかるきものとつけかえ、そうして、附き添って来た家族の者を、やや、安心させて、あくる日、院長、二階は未だ許可とってないから、と下の陰気な十五名ほどの患者と同じの病棟へ投じる。一、ちくおんき慰安。私は、は・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
いよいよ、四月十日も迫って参りました。私たち二千九十一万余人の婦人有権者は、生れてはじめて、自分たちの政治のために、一票を投じる日を迎えることとなりました。 婦人ばかりでなく、男の方たちにしろ、今度の選挙に対しては、こ・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・現実にわが身を投じると没我の表現で云っても、客観的には却ってそこで作者の主観が最もつよく爆発する場合が多いことをも知っていると思う。 近代日本の文学の中に長い伝統をもっていた私小説というものが、その主観性のせまい枠と同時的なリアリズムの・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・自身にのしかかるそういう重荷の歴史性を、はっきり解剖し、根底から社会通念を人間が生きるに合理的な方面に導こうとする建設の道へ身を投じる者は、少数の、本当に強い心持の若者であろう。しかも、それらの勇敢な良心的な若い息子や娘等の努力をも、未だ打・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・フランス全国の同業者等は、この唐突に現れた資本も少ない若年の一出版業者が、疑なく時流に投じるであろう出版計画をもっていることを見極めると、共通な悪計によって結束した。一万フランの資本をかけて出版した本の売上げが、一年にやっと二十部という目に・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ ごく近い過去まで、婦人一般のおかれていた社会的水準を基にして見れば、階級的分別があるにしろ無いにしろ、兎に角一人の女が文学の仕事に身を投じる決心をしたその事が、既に古い社会に対して抗議の第一歩としての意味をもっていた時代があった。・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
出典:青空文庫