・・・かかる態度を拒否するのも促進するのも一に繋って第四階級自身の意志にある。 私は第四階級以外の階級に生まれ、育ち、教育を受けた。だから私は第四階級に対しては無縁の衆生の一人である。私は新興階級者になることが絶対にできないから、ならしてもら・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・に、兎が餅を搗いているといった時代の子供の知識はその生活状態と調和していたがために、何等不自然を感ずることなく、その話の中に引入れられたのであるが、いまの子供達の知識はかゝる現実に根拠を有しない空想を拒否するがために他ありません。そして、彼・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ 人類が、もし、失われたる幸福を取り返えさんためには、この物質主義的文明を拒否すればいいのだ。一言にすれば、虚飾を排することだ。しかも、これを拒否する自由は、誰にもある。 やはり、芸術に於てもそうだ。複雑なる主義に、たとえば、政治に・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・ 近代科学の使徒の一人が、堯にはじめてそれを告げたとき、彼の拒否する権限もないそのことは、ただ彼が漠然忌み嫌っていたその名称ばかりで、頭がそれを受けつけなかった。もう彼はそれを拒否しない。白い土の石膏の床は彼が黒い土に帰るまでの何年かの・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・いいえ、もう、それには、とはげしく拒否して、私は言い知れぬ屈辱感に身悶えしていた。 けれども、お巡りは、朗かだった。「子供がねえ、あなた、ここの駅につとめるようになりましてな、それが長男です。それから男、女、女、その末のが八つでこと・・・ 太宰治 「黄金風景」
・・・言下に拒否した。顔を少し赤くして、くつくつ笑っている。「お留守のあいだは、いやよ。」「なんだ、」小坂氏はちょっとまごついて、「何を言うのです。他人に貸すわけじゃあるまいし。」「お父さん、」と上の姉さんも笑いながら、「そりゃ当り前よ。・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ひとにものをたのまれて、拒否できるような男爵ではなかった。「ああ、いいよ。いいとも。」 撮影所から退去して、電車にゆられながら、男爵は、ひどく不愉快であった。もとの女中と、新橋駅で逢うということが、いやらしく下品に感じられてならなか・・・ 太宰治 「花燭」
・・・その時のジャアナリズムが、政府の方針を顧慮し過ぎて、自分の小説の発表を拒否する事が、もし万一あったとしても、自分は黙って書いて行きます。発表せずとも、書き残して置くつもりです。自分は明白に十九世紀の人間です。二十世紀の新しい芸術運動に参加す・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・少年は、私の拒否を無視して、どんぶりを片手に持ったまま、ひとりで詠嘆の言葉を発し、うっとりした眼つきをして見せた。「僕は、フランス人の秩序なんて信じないけれど、強い軍隊の秩序だけは信じているんだ。僕には、ぎりぎりに苛酷の秩序が欲しいのだ。う・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・その相手の女のひとは、私を拒否して、言うことには、「あなたは、私ひとりのものにするには、よすぎます。」私は、あわてて失恋の歌を書き綴った。以後、女は、よそうと思った。 何もない。失うべき、何もない。まことの出発は、ここから? ・・・ 太宰治 「思案の敗北」
出典:青空文庫