・・・だから自信のあるものが勝ちである。拙宅の赤んぼさんは、大介という名前の由。小生旅行中に女房が勝手につけた名前で、小生の気に入らない名前である。しかし、最早や御近所へ披露してしまった後だから泣寝入りである。後略のまま頓首。大事にしたまえ。萱野・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そうして、「十一月二日の夜、六時ごろ、やはり青森県出身の旧友が二人、拙宅へ、来る筈ですから、どうか、その夜は、おいで下さい。お願いいたします。」と書き添えた。Y君と、A君と二人さそい合せて、その夜、私の汚い家に遊びに来てくれることになってい・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・私は、いつでもおいで下さい、と返事を書いて、また拙宅に到る道筋の略図なども書き添えた。 数日後、丸山です、とれいの舞台で聞き覚えのある特徴のある声が、玄関に聞えた。私は立って玄関に迎えた。 丸山君おひとりであった。「もうひとりの・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・ 拙宅の庭の生垣の陰に井戸が在る。裏の二軒の家が共同で使っている。裏の二軒は、いずれも産業戦士のお家である。両家の奥さんは、どっちも三十五、六歳くらいの年配であるが、一緒に井戸端で食器などを洗いながら、かん高い声で、いつまでも、いつまで・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・ ある若い学者がある日ある学会である論文を発表したその晩に私の宅へ遊びに来てトリオの合奏をやっていたら、突然某新聞記者が写真班を引率して拙宅へ来訪しそうして玄関へその若い学者T君を呼び出し、その日発表した研究の要旨を聞き取り、そうしてマ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
出典:青空文庫