・・・一日島田はかつて爾汝の友であった唖々子とわたしとを新橋の一旗亭に招き、俳人にして集書家なる洒竹大野氏をわれわれに紹介した。その時島田と大野氏とは北品川に住んでいる渋江氏が子孫の家には、なお珍書の存している事を語り、日を期してわたしにも同行を・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・ わたしはいかなる断篇たりともその稿を脱すれば、必亡友井上唖々子を招き、拙稿を朗読して子の批評を聴くことにしていた。これはわたしがまだ文壇に出ない時分からの習慣である。 唖々子は弱冠の頃式亭三馬の作と斎藤緑雨の文とを愛読し、他日二家・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ 今はこれまでの命と思い詰めたるとき、エレーンは父と兄とを枕辺に招きて「わがためにランスロットへの文かきて玉われ」という。父は筆と紙を取り出でて、死なんとする人の言の葉を一々に書き付ける。「天が下に慕える人は君ひとりなり。君一人のた・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・ 返す返す申すようですが題がすでに文芸と道徳でありますから、道徳の関係しない文芸のことは全然論外に置いて考えないと誤解を招きやすいのであります。道徳に関係の無い文芸の御話をすれば幾らでもありますが、例えば今私がここへ立ってむずかしい顔を・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
今日は図らず御招きに預りまして突然参上致しました次第でありますが、私は元この学校で育った者で、私にとってはこの学校は大分縁故の深い学校であります。にもかかわらず、今日までこういう、即ち弁論部の御招待に預って、諸君の前に立っ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・――それで、もしその時にその米国帰りの人が採用されずに、この私がまぐれ当りに学習院の教師になって、しかも今日まで永続していたなら、こうした鄭重なお招きを受けて、高い所からあなたがたにお話をする機会もついに来なかったかも知れますまい。それをこ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結句字余りのところ『万葉』を学びたれど勢抜けて一首を結ぶに力弱し。『万葉』の「うれむぞこれが生返るべき」などいえるに比すれば句勢に霄壌の差あり。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・おめでとう。お招き通りやって来たよ。」「うん、ありがとう。」「ところで式まで大分時間があるだろう。少し歩こうか。散歩すると血色がよくなるぜ。」「そうだ。では行こう。」「三人で手をつないでこうね。」ブン蛙とベン蛙とが両方からカ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・おじぎをしました。山男もしずかにおじぎを返しながら、「いやこんにちは。お招きにあずかりまして大へん恐縮です。」と云いました。みんなは山男があんまり紳士風で立派なのですっかり愕ろいてしまいました。ただひとりその中に町はずれの本屋の主人が居・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・祭司次長が又祭壇に上って壇の隅の椅子にかけ、それから一寸立って異教徒席の方を軽くさし招きました。 異教徒席の中からせいの高い肥ったフロックの人が出て卓子の前に立ち一寸会釈してそれからきぱきぱした口調で斯う述べました。「私はビジテリア・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫