・・・最も近代人的態度を持する島村抱月君もまた恐らくこの種の葛藤を属々繰返されるだろう。 この殆んど第二の天性となった東洋的思想の傾向と近代思想の理解との衝突は啻に文学に対してのみならず総ての日常の問題に触れて必ず生ずる。啻に文人――東洋風の・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・不断の感激を心に持するということは、其の人が特殊な理想主義者でなければならない。人間性の為めの勇敢な戦士であらねばならぬ。現実が極めて安意な無目的の状態に見えるのも、或いは希望の光りに輝いて見えるのも畢竟、主観的の問題である。其の人を離れて・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・忍術というのは明治になっては魔法妖術という意味に用いられたが、これは戦乱の世に敵状を知るべく潜入密偵するの術で、少しは印を結び咒を持する真言宗様の事をも用いたにもせよ、兵家の事であるのがその本来である。合気の術は剣客武芸者等の我が神威を以て・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・けれども、一部の作家が全く窒息させられていた何年かの間、少くともその書房は、将来の展望を失わず、文化の本質に対して持するところある態度を保って来ていた。ただ断ってしまうのは、何か気のすまないところがあったので、考えた末、もしや、そこならば、・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・組合の活動にしろ戦争反対、ファシズム反対を持するこころもちとその行動、金でいえば五千円の越年資金を闘いとる行動にしろ、みんなその本質は解放を求める人民としての精神が、肉体の行為によってしめされたものである。だのに、どうして文学ではこの実際で・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫