・・・ これに処する根本的対策としては小学校教育ならびに家庭教育において児童の感受性ゆたかなる頭脳に、鮮明なるしかも持続性ある印象として火災に関する最重要な心得の一般を固定させるよりほかに道はないように思われる。 現在の小学校教育の教程中・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・もしも、いつも半分風邪を引いているのが風邪を引かぬための妙策だという変痴奇論に半面の真理が含まれているとすると、その類推からして、いつも非常時の一歩手前の心持を持続するのが本当の非常時を招致しないための護符になるという変痴奇論にもまたいくら・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・例えば永代橋辺と両国辺とは、土地の商業をはじめ万事が同じではなかったように、吉原の遊里もまたどうやらこうやら伝来の風習と格式とを持続して行く事ができたのである。 泉鏡花の小説『註文帳』が雑誌『新小説』に出たのは明治三十四年で、一葉柳浪二・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・元来人間の命とか生とか称するものは解釈次第でいろいろな意味にもなりまたむずかしくもなりますが要するに前申したごとく活力の示現とか進行とか持続とか評するよりほかに致し方のない者である以上、この活力が外界の刺戟に対してどう反応するかという点を細・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・もない、すなわち自分の力に余りある所、すなわち人よりも自分が一段と抽んでている点に向って人よりも仕事を一倍にして、その一倍の報酬に自分に不足した所を人から自分に仕向けて貰って相互の平均を保ちつつ生活を持続するという事に帰着する訳であります。・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・つまり一つの型を永久に持続する事を中味の方で拒むからなんでしょう。なるほど一時は在来の型で抑えられるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式はいつか爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う。 元来この型その・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・我々は生慾の念から出立して、分化の理想を今日まで持続したのでありますから、この理想をある手段によって実現するものは、我々生存の目的を、一層高くかつ大いにした功蹟のあるものであります。もっとも偉大なる理想をもっともよく実現するものは我々生存の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・sens intime[内奥感、内密感、内親感]としてメーン・ドゥ・ビランの哲学を構成し、遂にベルグソンの純粋持続にまで到ったと考えることができる。メーン・ドゥ・ビランはパスカルが賞讚するといった ceux qui cherchent en・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・と出来上った六神丸の効き目が尠いだろうから、だが、――私はその階段を昇りながら考えつづけた――起死回生の霊薬なる六神丸が、その製造の当初に於て、その存在の最大にして且つ、唯一の理由なる生命の回復、或は持続を、平然と裏切って、却って之を殺戮す・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・教育の効の緩慢にして、ひとたびこれに浸潤するときは、その効力の久しきに持続すること明に見るべし。 政事の性質は活溌にして教育の性質は緩慢なりとの事実は、前論をもってすでに分明ならん。然らばすなわち、この活溌なるものと緩慢なるものと相・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫