・・・なんの指針をも持っていない様子である。私は波の動くがままに、右にゆらり左にゆらり無力に漂う、あの、「群集」の中の一人に過ぎないのではなかろうか。そうして私はいま、なんだか、おそろしい速度の列車に乗せられているようだ。この列車は、どこに行くの・・・ 太宰治 「鴎」
・・・そうして観者の頭の中の映画に強いアクセントを与え、同時に次の進展への衝動と指針を与える。これは驚くべき芸術であるとも言われなくはない。これはともかくも一つの問題である。そうしてこの問題を追究すればその結果は必ず映画製作者にとってきわめて重要・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ つまり各部門においては現在既知の知識の終点を究め、同時に未来の進路に対して適当の指針を与え得るものが先ず理想的の権威と称すべきものではあるまいか。 現在既知の科学的知識を少しの遺漏もなく知悉するという事が実際に言葉通りに可能である・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・しかし、そういう考察を進めて行けば、その結果は、ニュース映画の将来の発展に対して、少なくもなんらかの指針となるべき暗示を生み出すであろうと想像される。自分はこの問題に関してまだ少しも系統的に考察をしてみたわけではないが、ただわずかばかり思い・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・またそう見ることによって定座の意義が明瞭となり、また制作に当たっての一つの指針を得ることができるであろうかと思われる。 そういう役目を月と花との二つに負わせた事にも興味がある。これは一つには古来の伝統による雪月花の組み合わせにもよる事で・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・の翻訳文学が一方にあり、福沢諭吉の新興ブルジョアジーの啓蒙者としての活動が重大な指針となった時代が去った後は、徳川末期の戯作者の気風、現実に対する無批判な妥協的態度が、西欧の文学的潮流の移植の側らにあって、常に日本の近代性の中に含まれている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・マニズム論は、自然、良心的市民全般の生活態度への示唆として注目をひきつけずにはいなかったのであったが、残念なことに、多くのヒューマニズム提唱者は、それぞれの持論の内に、第三者が直ちにそれをもって行為的指針となし得なかった様々の微妙な矛盾を示・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・心理学的に、統計的に、社会的世論をつくりあげてゆくための暗示の可能性とその方向の指針として。さもなければ、今日の日本の新聞に、共産主義者は軍国主義者であるというような愚劣な文字がどうしてあらわれ得るだろう。 共産主義のみならず社会主義的・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・が行動の指針として有能な若い男女の間で読まれたということも、おのずから今日肯けるのである。 ツルゲーネフとトルストイとの衝突は既に文学史的な出来ごとである。二人の大作家が十五年間も意志の疏通を欠いたばかりか、或る時は本気で決闘までしかね・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・若い娘達の生活感情に指針を与えるどころか、彼等自身の足許を、彼女等の示す無自覚なだけ却って抑制のない感情の表現によってぐらつかせられます。人格の陶冶されない男性の共通な癖として、若い女性の気持の夢を認めず、男性同様の現実的慾求が暗示されてい・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
出典:青空文庫