・・・少女は見て、その悲哀を癒す水はここにありと、小枝を流れに浸しこなたに向かいて振れば、冷たき沫飛び来たりて青年の頬を打ちたり。春の夢破れぬ。 風起こりて木の葉あらあらしく鳴りつ、梢より落つる滴りの落ち葉をうつ音雨のごとし。かれは静かに身を・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・昔からあの家は、お仲人の振れ込みほどのことも無く、ケチくさいというのか、不人情というのか、わたくしどもの考えとは、まるで違った考えをお持ちのようで、あのひとがこちらへ来てからまる八年間、一枚の着換えも、一銭の小遣いもあのひとに送って来た事が・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・しかし、年とった農民がそのトラクターを眺めて溜息をついて疑わしそうに否定的に頭を振れば、農民作家はそれをそれとしてその農民の枠内でだけ把握し描写し、一歩突き進んで、ロシアの歴代の農民はなぜツルゲーニェフやトルストイ時代、農業機械をきらって来・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫