・・・すると番附には「ピストル強盗清水定吉、大川端捕物の場」と書いてあった。 年の若い巡査は警部が去ると、大仰に天を仰ぎながら、長々と浩歎の独白を述べた。何でもその意味は長い間、ピストル強盗をつけ廻しているが、逮捕出来ないとか云うのだった。そ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・蓄妾もまた、勝誇った田舎侍が分捕物の一つとして扱ったから、昔の江戸の武家のお部屋や町家の囲女の情緒はまるで失くなって、丁度今の殖民地の「湾妻」や「満妻」を持つような気分になってしまった。当時の成上りの田舎侍どもが郷里の糟糠の妻を忘れた新らし・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・延久代という名取名を貰っている阿久は一々節廻しを貶した。捕物の場で打出し。お神さんの持って来た幸寿司で何も取らず、会計は祝儀を合せて二円二十三銭也。芝居の前でお神さんに別れて帰りに阿久と二人で蕎麦屋へ入った。歩いて東森下町の家まで帰った時が・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
出典:青空文庫