・・・僕に採点しろというのですか?」「――中傷さ」「それじゃ言うが、そのしどろもどろは僕の特質だ。たぐい稀な特質だ」「しどろもどろの看板」「懐疑説の破綻と来るね。ああ、よして呉れ。僕は掛合い万歳は好きでない」「君は自分の手塩に・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・気弱な父の採点である。 さちよが、四年生の秋、父はさちよのコスモスの写生に、めずらしく「優」をくれた。さちよは、不思議であった。木炭紙を裏返してみると、父の字で、女はやさしくあれ、人間は弱いものをいじめてはいけません、と小さく隅に書かれ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・気球に乗って一万メートルの高さにのぼって目をまわしておりて来たというだけの人と、九千メートルまでのぼってそうして精細な観測を遂げて来た人とでは科学的の功績から採点すればどちらが優勝者であるか、これは問題にもならない。 レコードは上述のご・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ これもやはり、他の多くの場合と同様に自分の注目し期待する特定の場合の記憶だけが蓄積され、これにあたらない場合は全然忘れられるかあるいは採点を低くして値踏みされるためかもしれない。しかし必ずしもそういう心理的の事実のみではなくて、実際に・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・応募者の試験委員たちの採点表中に容貌の条項はあっても腕の条項がないかもしれないが、少なくも食堂の場合には、これも一つのかなりの程度まで考慮さるべきアイテムとなるべきものかもしれない。 器量のよくないので美しい腕の持ち主もある一方ではまた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・して見ると、つまりは純文学の批評家は純文学の方面に関するあらゆる創作を検閲して採点しつつある事になる。前例を布衍して云うと地理、数学、物理、歴史、語学の試験をただ一人で担任すると同様な結果になる。 純文学と云えばはなはだ単簡である。しか・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ある独逸語教授の非常識な採点法によって、学年試験に三十五人のうち十七人落第させられる。その内の一人となる。八月、足尾銅山に遊び、処女作「穴」を書く。この作品は川村花菱氏を通じ伊原青々園の『歌舞伎』にのせられた。 一九一一年。名古屋の或る・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫