・・・しかし著者はこのような光景は固より盲者にとっては何らの体験にも相応しないバーバリズムに過ぎないという事を論じ、それから推論して、ケラーが彫刻を撫で廻せばその作者の情緒がよく分るといった言葉の真実性を疑っている。 私はこれを読んだ時に何だ・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・それからまた、頭の中で考えただけでは充分につじつまが合ったつもりでいた推論などが、歴然と目の前の文章となって客観されてみると存外疑わしいものに見えて来て、もう一ぺん初めからよく考え直してみなければならないようなことになる。そういう場合も決し・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・たったそれだけの実証的与件では何事も実証的に推論できるはずはない。小説はできても実話はできないのである。 こんなことを考えながら歩いているうちに、いつのまにか数寄屋橋に出た。明るい銀座の灯が暗い空想を消散させた。 紫色のスウィートピ・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 殻を砕いて新たに立てた根本仮定から出発して、それから推論される結果までの論理的道行きは数学者に信頼すればそれでよい。そして結果として出現した整然たる系統の美しさを多少でも認め味わう事ができて、そうして客観的実在の一つの相をここに認める・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ しかしこの現象から、日本人は世界じゅうで最もはなはだしく書籍を尊重し愛好する国民であるということを推論することはできない。なんとなれば、この現象からむしろ反対の結論に近いものを抽出することも不可能ではないからである。すなわち、もしもす・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・原著を読まないで引用書を通して読んだのであるからあまり強いことは言われないが、これだけの事実から、鷙鳥類の嗅覚の弱いことを推論するのははなはだ非科学的であろうと思われるし、ましてや、とんびの場合に嗅覚がなんらの役目をつとめないということを結・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・この死市街の南から東へかけた平坦な砂漠の水準測量をやった結果、これが昔の湖水の跡だということが推論された。それでヘディンは、タリムの下流は約千五百年の週期で振り子のように南北に振動し変位し従って振り子の球に当たるロプ・ノールも南北に転位する・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・かく推論の結果心理学者の解剖を拡張して集合の意識やまた長時間の意識の上に応用して考えてみますと、人間活力の発展の経路たる開化というものの動くラインもまた波動を描いて弧線を幾個も幾個も繋ぎ合せて進んで行くと云わなければなりません。無論描かれる・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・そこには何らの意味においても対象的なるもの、否、基体的なるものがあってはならない。推論によって求められるものがあってはならない。自己自身の証明を他に求めるものは、自己自身によってあるものではない。主語となって述語とならないといっても、それは・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・これはちと穿鑿に過ぎた推論である。しかしこんなのが女にありそうな心理状態だと思うと、特別の面白みがある。 ピエエル・オオビュルナンはわざとらしく口の内でつぶやいた。「ああ。そんな事はどうでもいいのだ。十六年前の事を思ってみると、あのマド・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫