・・・「え、それは私も言ったんですがね、向うの言うのじゃ、決めておくのはいいが、お互いにまたどういう思いも寄らない故障が起らないとも限らないから、まあもう少しとにかく待ってくれって、そう言うものですからね」「お光さん」と媼さんは改まって言・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・白崎はかねがね、「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がはいるのだ」 と、言っており、何か自分の運命というものに諦めをつけていたのである。 やがて二人はとぼとぼ帰って行った。暮れにくい夏の日もいつか暮れて行き、落・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 骨に故障が有るちゅうじゃなし、請合うて助かる。貴様は仕合ぞ、命を拾うたちゅうもんじゃぞ! 骨にも動脈にも触れちょらん。如何して此三昼夜ばッか活ちょったか? 何を食うちょったか?」「何も食いません。」「水は飲まんじゃったか?」「・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・その時、医師の言われるには、これは心臓嚢炎といって、心臓の外部の嚢に故障が出来たのですから、一週間も氷で冷せばよくなりますとのことで、昼夜間断なく冷すことにしました。 其の頃は正午前眼を覚しました。寝かせた儘手水を使わせ、朝食をとらせま・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 腎臓の故障だったことがわかった。舌の苔がなんとかで、と言って明瞭にチブスとも言い兼ねていた由を言って、医者も元気に帰って行った。 この家へ嫁いで来てから、病気で寝たのはこれで二度目だと姉が言った。「一度は北牟婁で」「あ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・医者は腎臓の故障だと診て帰った。 行一は不眠症になった。それが研究所での実験の一頓挫と同時に来た。まだ若く研究に劫の経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。夜、寝つけない頭のなかで、信子がきっと取返しがつかなくな・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・人は将来の生活地を北海道と決めていまして、相談も漸く熟したので僕は一先故郷に帰り、親族に托してあった山林田畑を悉く売り飛ばし、その資金で新開墾地を北海道に作ろうと、十日間位の積で国に帰ったのが、親族の故障やら代価の不折合やらで思わず二十日も・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・』とまで云われて私も急に力が着きましたから、『よろしい、それではともかくも一応叔母と相談して、叔母が承知すればよし、故障を言えばお前のいう通り、お幸と二人で大阪へでも東京へでも飛び出すばかりだが、お幸はこれを承知だろうか』『ヘン! ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・上から見れば、それは一分の故障もない完全な線路であった。歩哨にも警戒隊にも分らなかった。而も、そこへ列車が通りかゝると、綿を踏んだように線路はドカンと落ちこみ、必然脚を踏み外すのであった。 五 十三寝ると病院列車に・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・それに国との手紙の往復にも多くの日数がかかり世界大戦争の始まってからはことに事情も通じがたいもどかしさに加えて、三年の月日の間には国のほうで起こった不慮な出来事とか種々の故障とかがいっそう旅を困難にした。私も、外国生活の不便はかねて覚悟して・・・ 島崎藤村 「分配」
出典:青空文庫