・・・しかし、ここで敗退しては、色男としての名誉にかかわる。どうしても、ねばって成功しなければならぬ。「恋愛と淫乱とは、根本的にちがいますよ。君は、なんにも知らんらしいね。教えてあげましょうかね。」 自分で言って、自分でそのいやらしい口調・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ほどなく、きゃんきゃん悲鳴を挙げて敗退した。おまけにポチの皮膚病までうつされたかもわからない。ばかなやつだ。 喧嘩が終って、私は、ほっとした。文字どおり手に汗して眺めていたのである。一時は二匹の犬の格闘に巻きこまれて、私もともに死ぬるよ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・われわれ人民が、理不尽な暴力で導きこまれた肉体と精神との殺戮が、旧支配力の敗退によって終りを告げ、ようやく自分たち人間としての意識をとりもどし、やっとわが声でものをいうことができる世の中になったことをよろこばない者がどこにあろう。日本は敗戦・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 日本の歴史は、惨憺たる進歩性の敗退の跡を示している。明治維新によって、名目上の民権が認められ、新しい日本を建設しようという希望に燃えた一団の人々は明治十四年自由党を結成した。有名な中島湘煙が十九歳で政談演説を行い、婦人政治家として全国・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ルーズヴェルト当選予測を示して、調査の正確さで進出したギャラップ博士の世論調査所が、つづく大戦中、半官的な米国世論調査所と発展し、この一九四八年の大統領選挙でデューイとともに敗退した。ギャラップの米国世論研究所は、ダイジェストと全く似た理由・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 三 それならば一九四九年という年は、福田恆存の概括にしたがって「知識階級の敗退」の年であったのだろうか。「かつての自然主義隆隆とまったく同様、ちょうど三年にして衰退しはじめたのであります。平林たい子のこと・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・一九四五年八月が来てその土地の憲兵隊が敗退してひきあげるとき彼等は郁達夫に日本語がわかり、彼等の侵略行動の目撃者、戦犯の証人であるということを恐怖した。彼等は郁達夫を殺した。 郁達夫の物語は、わたしたちにジャンバルジャンを思い出させ、レ・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・北フランスでどんどんと追いはらわれてゆくナチス軍の敗退の足どりがしるされた。レニングラードの市民の英雄的な闘い、遂に陥落しなかったモスクワ。ひとつひとつの民主的人民の勝利の前進が日本の狂気のようなファシズム下の生活の中へもひびきわたってきた・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・くとき、ワシリェフスカヤは、過去の文学における文学的な省略法、テーマの進展のモメントとなる各細部を、印象的に整理してゆく方法だけに頼らず、もっと深く本質にふれて、占領地域におけるナチス軍の窮極における敗退の生活的・心理的な理由を、政治的にし・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・嘘で塗り固めた権力と表面の統一のもとに国内生活は恐ろしい破綻を孕み、戦局は一刻一刻と敗退の途を辿りながら昭和二十年の夏が来たのであった。 終って 一九四五年八月十五日。日本は無条件降伏をもって太平洋戦争を終結し・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫