・・・ 三 世界の屋根 この映画で自分のもっとも美しいと思った場面はおおぜいの白衣の回教徒がラマダンの断食月に寺院の広場に集まって礼拝する光景である。だがせっかくのこのおもしろい場面をつまらぬこしらえものの活劇で打ちこわし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・後者は、ギリシア人であったのが後には一般外国人、あるいは回教徒の意に用いられ、ちょうどギリシア人の barbaros に相当するものになっているからおもしろい。東夷南蛮の類であり、毛唐人の仲間である。この「ヤナ」が「野蛮」に通じまた「野暮な・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ その栗の木と白い雪の峯々にかこまれた山の上の平らに黒い大きなものがたくさん環になって集って各々黒い影を置き回々教徒の祈るときのようにじっと雪にひれふしたままいつまでもいつまでも動かなかった。そしてその雪と月のあかりで見るといちばん高い・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ ところが祭壇の下オーケストラバンドの右側に、「異教徒席」「異派席」という二つの陶製の標札が出て、どちらにも二十人ばかりの礼装をした人たちが座って居りました。中には今朝の自働車で見たような人も大分ありました。 私もそこで陳氏と並んで・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・回教徒とバラモン教徒との対立は、一人一人の婦人の運命に重大に関係している状態である。 李白が「万戸砧をうつ声」と詩にうたったその日夜の砧は、宋国のどんな男がうっただろう。それはみんな婦人たちのうつ砧の音であって、数千年の間、人類の女性は・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・参議院の考査委員会は、永井隆氏を表彰しようという案を発表したが、六月十二日、七月三日の週刊朝日は、カソリック教徒であるこのひとの四つの著書が、それぞれにちがった筆者であるというようにいっている。 記録文学のあるものは、クラブチェンコの「・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・バイブルに、男女は差別ある賃銀を、と書いてはなかろうが、カソリック教徒である日本の文相は、それらを教員たちとの係争点にしている。あらゆる市民が半封建的なものからの離脱を努力しているとき、文学もブルジョア民主主義的立場からの面をもたないわけに・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・十八世紀の末に、清教徒が精神の自由を求めて新世界へ移住してきた封建的伝統を少くもった新興国である。移民した人々に対する英国の徴税とその君主支配に反対して独立戦争をおこして、勝利した。人類の理想、人道主義世界の擁護、平和の精神はアメリカ伝統の・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・「正教徒が……」「責任は負う!」「俺達の責……」 ロマーシは囁いた。「俺の背を合わせて立って呉れ! 後から殴られないように……」 風呂場は、勿論空なのであった。「何んもない!」「何も?」「ああ、畜生!」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 戸を開けて這入って来たのは、ユダヤ教徒かと思われるような、褐色の髪の濃い、三十代の痩せた男である。 お約束の Mademoiselle Hanako を連れて来たと云った。 ロダンは這入って来た男を見た時も、その詞を聞いた時も・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫