・・・ 来ても何をそう食べると云うでもなくしゃべると云うでもなく他処よりも木の葉の深々と繁って居るのを見たり、忘られた様な数多の書籍の裡から思いがけなく好い絵や言葉を見つけ出したりして居た。 上品なこの来る度の無口さは千世子に、やがて口を・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・京都の黄檗山万福寺と同様、大雄宝殿其他の建物を甃の廻廊で接続させてあるのだが、山端で平地の奥行きが不足な故か、構造の上でせせこましさがある。数多の柱列を充分活かすだけの直線の延長が足りないとでも説明すべきなのか。京都の万福寺の建物では智的で・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・と思うで有ろう。数多の女達の中であざみの中の撫子かそれよりもまだ立ちまさって美しく見えて居る紫の君は扇で深くかおをかくして居ながらもその美くしさをしのばする、うなじの白さ、頬の豊けさ、うす紅にすきとおるような耳たぼ、丈にあまる黒かみをなだら・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 四五年前に病気が流行った時に数多の牛を失ったので、今は元に戻すにせわしくして居る。兄弟で一家に居て同じ仕事を共同にして居る。兄はどっちかと云えば小柄な、四角張った顔の中に小さい眼と低い鼻と両端の下った様な口をして居る。髪を少し長目に刈・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 第一の女 第二の女 第三の女 非番の老近侍 帝の供人同宮人数多 法王の供人数多及び弟子達 イタリー、サレルノの農夫の老夫婦 人民数多、及び不信心な遊び者 第一幕 ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ よし又、教員として技量に自信を持たなければ家政婦としても、家事助手となっても、生きて行く道は数多あります。方法が見出し難いと云うのは、寧ろ自己弁護であるようにさえ思われました。詰り、良人に対する真心の愛は案外薄弱なもので結局第三の良人・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・などまで『働く婦人』には包括されている。数多のブルジョア婦人雑誌がそれを共通な特徴として婦人大衆の日常的な要求に訴えている実用記事を、『働く婦人』は階級的な扱いかたで雑誌の中に生かそうとしている。――ブルジョア婦人雑誌が一見実に陳腐でありな・・・ 宮本百合子 「婦人雑誌の問題」
・・・そして、今漸々戦慄すべき大殺戮の武具を納めた数多の国々は――。 私共は皆、人を殺しながら、神を呼ばずには居られないのだ。神を――偉大な調和と、解放とを求めながら、縊り合わずには居られないのだ。 そうは思いませんか。 総ての人々は・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫